彼女との関係
今日の午前中は5名の患者さんのカウンセリングをしてお昼になった。私は昨日と同様に、コンビニでおむすびとパンを買って公園に向かった。自然と歩くスピードが早くなっていた。でもそれは、お腹が空いている訳でも時間がなかった訳でもなかった。公園に着くと、いつものベンチに座った。でも、コンビニで買ったものに手をつけることなく、ただ彼女を眺めていた。そして私は、行き交う人と笑顔で話す彼女の姿をスマホのカメラで撮影した。しばらくして私に気付いた彼女は怒った顔をしながら私のところにやって来た。
「さっき、私に黙って写真撮ってたでしょ?」
「えぇ、まぁ――」
「それって盗撮って言うんだよ。スマホ貸して!」
彼女がスマホを渡すよう、私の前に手を出してきたので仕方なく手渡した。そして彼女はそれを受け取ると画面をタップしたり、スワイプして何か操作をしていた。きっと彼女の写真を消しているに違いない。
「はい、これ返すね!」
「はっ、はい――」
「ねぇ、お兄さんはどこか体の具合が悪いの?」
「えっ、何がですか?」
「もしかして病気?」
「どうして私が病気だと?」
「だって、この前病院に戻るって――」
「あぁ、そのことですか。実はでっ――」
「むっ、無理して言わなくてもいいよ! 誰にだって秘密にしたいことぐらいあるから」
「別に秘密にしてるわっ――」
「もういいって! この話はこれでおしまい!」
「はぁ?」
「それより名前聞いてなかったよね。私は佐伯結衣」
彼女はそう言うと、何も言わずに笑顔で私の言葉を待っていた。
「私は上城真一と申します」
「上城真一か――よろしくです」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、私戻るね」
「はい」
彼女はもといた場所に戻ると、いつものように絵を描きながら行き交う人に笑顔で挨拶をしたり、楽しそうにお喋りをしていた。彼女は誰に対しても同じように接していた。私に話しかけてきたのも特別なことではなく、彼女にとっては日常のほんの1コマだったに違いない。
それからも毎日、コンビニで昼食を買ってから同じ時間に同じベンチに座って彼女を見続けた。そして彼女と話すようになって1週間経ったある日、彼女は私の隣に突然座ると、私がおむすびを食べているのを黙って見ていた。
「食べたいんですか?」
「別に」
「食べます?」
「いらない」
「それなら何で?」
「だって真一、いつもおむすびとパンでしょ? コンビニなら他にいくらでも食べもの売ってるのに同じものばっかりじゃん」
彼女はいつの間にかに私のことを〝真一〟と呼び捨てで呼んでいた。タメ口になったのも、たぶん同じ頃だっただろう。
「いつも同じ訳じゃないですよ。昨日はめっ――」
「昨日は明太子と鮭のおむすび。その前は、シーチキンと梅のおむすび。更にその前は、たらこと高菜のおむすび」
彼女は、そのあとも私がお昼に食べていたおむすびを1週間分も言い当てていた。