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彼女との関係

私がよく利用するこの公園は、この地域ではもっとも大きい緑に囲まれた公園で緑山中央公園と呼ばれていた。そして、入り口を抜けて森の中に入っていくと大広場があり中央には噴水が設けられていた。ここにはベンチが10個くらいあり、多くの人がここで休憩をしたり食事をとったりしている。更に奥に進むと昭和大池という大きな池があり、少し濁った水の中を遊泳する錦鯉などの姿や、水面を優雅に泳いでいるカモの姿が見られたりする。公園の中に入ると空いているベンチを探しつつ、陽の光を浴びながら気分良く歩いていた。晴天とはいえ、季節は冬。日向を歩いていれば太陽の光で暖かいが、日陰に入るだけで気温が5度くらい下がり、ジッとしていられないくらい寒い。


私はベンチに座りコンビニで買ったおむすびを食べていると、1人の女性が目に飛び込んできた。彼女は絵を描いていた。公園で凧あげををして遊ぶ子供や散歩をしている老夫婦、ランニングをしているボクサー風の男性、公園で働く清掃員――。そして彼らのうしろにある木々や草花などの自然溢れる風景をスケッチしているようだった。年齢は20歳前後で、肩より少し長い髪に、可愛らしい麦わら帽子をかぶっていた。背丈は160㎝後半で体型は痩せ型、太陽の下で絵を描いているにしては透き通るような色白の肌をしていた。しばらくの間ベンチに座り、休憩をとるフリをして彼女を観察していた。すると彼女は前を通る子供やお年寄り、散歩をしている犬に話しかけ、満面の笑みを浮かべていた。その笑顔が眩しいくらいに素敵で、何十年ぶりにトキメキと言うかドキドキと言うか、そんな感情が溢れ出てくるような気がした。普段は、自分で作ったお弁当を病院の休憩ルームで食べるのが日課になっていたが、昨晩は自宅で遅くまで仕事をしていたせいで、今朝はお弁当を作ることが出来なかった。そういう訳があって今日の昼食はコンビニのものになっていた。そしてこれが彼女との出逢いであり、私が彼女に心を奪われた記念すべき日でもあった。


それから私は次の日も、さらに次の日も、さらにその次の日もお弁当を持たずに、コンビニでおむすび2個と惣菜パンを1個買って公園に立ち寄った。そして公園へ行く度に、私はいつもと同じベンチに座り、遠くから彼女を眺めていた。あんなに楽しそうに絵を描く人を見るのは初めてだった。彼女が描く絵とはどんなものなのか非常に興味があったが、それ以上に彼女自身に興味を抱いていた。初めて逢ったあの日から彼女の笑顔が頭から離れず、気になって仕方がなかった。だから私はいつもここに来た。別に彼女と直接話がしたい訳でも、もっと距離を縮めたいという邪まな考えでは――決してなかった。今はただ、彼女の笑顔が見ていたかっただけだ。だから私は、1週間以上もこうして同じ時間、同じ場所にやって来ていた。


そして2週間が経とうとしていた今日も、いつもと同じようにベンチに座り昼食をとっていた。すると彼女は突然スケッチをする手を止めてペイントブラシを道具入れにしまうと、こちらに向かって歩いてきた。まさかと思ったが、そのまさかだった。彼女は私の目の前まで来て立ち止まると、いつも見るあの笑みを私に投げかけてきた。

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