彼女との関係
キィィィィィーーー
ドンッ!?
「うっ、うぅぅ···」
「ゆっ、結衣···」
体が···動かない···
もう駄目みたいですね···
残念です···
悔しいです···
私は···
あなたのために何かしてあげられましたか?
あなたのために何か残してあげられましたか?
幸せにしてあげられましたか?
私は幸せでした。
あなたに出会えて本当に良かった。
あなたと一緒にいられた時間こそが私の生きた証です。
結衣···ありがとう···
さようなら···
現在······
午前の仕事を終え、昼食を買いにコンビニに向けて歩いていると遠くで警察官とガラの悪い中年の男がもめているのが目に入ってきた。男は警察官に対し、怒鳴り声をあげて喚き散らしていた。そんな普通じゃない状況に、行き交う人は目を合わせないように通り過ぎて行った。また、そんな異常な男をスマホで写真を撮ろうと野次馬が次々と集まり始めていた。話を聞いていると、どうやら中年の男がスリをしたのを警察官が捕まえたらしい。ところが盗んだものがどこにもないらしく、男が〝誤認逮捕だ〟の〝人権侵害だ〟の言っているようだ。
「どうかされましたか?」
「上城先生――」
私は、いつも挨拶を交わしている感じの良い交番勤務の黒澤さんが気の毒になり話しかけた。
「実は――――」
黒澤さんは中年の男を気にしながら、私の耳元で事情を説明してくれた。
「なるほどわかりました」
「何だ、てめえは?」
私と黒澤さんのやり取りを見ていた男は、私の存在が気に入らないらしく直ぐにからんできた。「私は精神科医の上城真一と申します」
「なっ、何で医者が話しに入ってくるんだ!」「あなたが困っているようなので助けに入ったんですよ。あなたはスリをしていないんですよね?」
「もっ、もちろんだ! ただの言いがかりだ!」
男は、やはり嘘をついているようだ。それは彼の目の動き、表情から推察すれば明らかだった。
「警察はあなたが、ここで捕まるまでの間に、盗んだものをどこかに捨てたと思っているようです。本当にやっていないことを証明するために、あなたがここに来るまでの道を歩いてみるというのはどうでしょう? そうすれば、警察も納得するはずです。大丈夫です。私は、あなたがやったとは思っていません」
「そうか――。だったら早くしてくれ! 俺は忙しいんだ」
男は私の言葉に安堵し、私を信用し始めているようだった。
「わかりました。それなら行きましょう」
それから私は、警察官の黒澤さんと応援に駆けつけた警察官、そして犯人と思われる男の4人で男が通って来た道を引き返し、事件現場まで歩いた。
「この辺りでは、よくスリが発生しているので警察の方も厳重に警戒しているんですよ。あなたは、たまたま事件のあった場所に居合わせてしまったために、こうして容疑がかかり、現場検証に付き合わされる羽目になってしまいました。運が悪かったとしか言いようがありません」
「全くだ。いい迷惑なんだよ!」
「この辺りは、よく来られるんですか?」
「あぁ、家が近いからな。この辺はよく買い物に来るんだ。俺の庭みてえなもんだ」