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暗中模索の旅の始まり

「もう死んでもともとだ、だが死ぬまえに、生きてやる」


 僕は街の外で生きることを決意した。


 もうこの街で、生きることはないだろう。手ぶらでそのまま街を出た。うつむいたまま街を出た。


 無謀なのはわかっていたが、街を出るまで顔を上げれなかった。

 無謀なのはわかっていたが、店に入ることすらままならなかった。


 カネがなかった。それよりも、誰とも目を合わせきれなかった。


 食糧をどうするか考えた。特にいい案は浮かばなかった。

 寝床をどうするか考えた。特にいい案は浮かばなかった。

 盗賊に襲われたらどうするか考えた。特にいい案は浮かばなかった。

 野獣に襲われたらどうするか考えた。特にいい案は浮かばなかった。


 命綱のない綱渡り、ゴールのみえない綱渡り。暗闇をゆく綱渡り。


 カジノのまえに、ナイフくらいは買っておけばよかったのでは? わかりきった答えを自分に問うた。

 全くなにも考えなかった。わかりきった答えだった。

 宿を取っておけば逃げきれたのでは? わかりきった答えを自分に問うた。

 全くなにも考えなかった。 わかりきった答えだった。

 僕はバカなのか? わかりきった答えを自分に問うた。

 全く答えが返らなかった。わかりきった答えのはずだった。


 草むらを歩いているうちに木がみえた。バカにしているかのように。


 幹を殴った。拳が痛みを訴えた。弱者の泣きごとを脳で無視した。

 もう一度殴った。さらなる痛みを訴えた。侮蔑の感情が芽生えた。

 左で殴った。拳が痛みを訴えた。弱者の泣きごとを脳で無視した。

 もう一度殴った。さらなる痛みを訴えた。侮蔑の感情がまた芽生えた。


「ちょうどいい、無性に弱い者いじめしたい気分だったんだ」


 右から左、左から右。弱々しく泣きごとを漏らし続けるそれらを僕は、びくともしない幹へと叩きこみ続けた。

 幹が真っ赤に染まっていった。全くびくともしないまま。

 か細い骨が見えだした。鼻で笑って叩きこんだ。

 砕けて握れなくなった。その姿が情けなかった。


「御大層な限りだね。きみは脳みそ様に殴れって言われてるんだよ」


 回復魔法で再生させた。すぐさま幹と叩きこんだ。

 訴え続ける弱者の泣きごとが耳障りだった。


 僕は弱者の破壊と再生をただひたすらに繰り返した。

 ありもしない権利、それを主張し続ける弱者に僕は、脳の命令で生殺与奪権を叩きこみ続けた。


「聞き苦しいから無意味な主張をやめろよな」


 無様な弱者に呆れ果てながらも気力が尽きた。


 僕はその場で眠りについた。



 木漏れ日が、優しく眩しく降りそそぐなかでの目覚め。日が高々とあがっていた。

 幹をみると血痕がドス黒く残り、すこしだけ皮がめくれていた。


 にしても、


「お腹空いた」


 そういえば最後になにか口にしたのって、昨日の昼だっけ。というかいま、胃のなかのもの全部吐いてしまって空っぽなんじゃん。


 この木はなにも実ってはいなかった。なにかないか周囲を見渡した。すこし遠くに森がみえた。


「もしかしたらあの森なら、木の実なり動物なり食べ物があるかもしれない」


 森に行けば食べ物がある確証はないが、少なくともここに留まるよりは可能性を見込めた。


 森に着いたころにはもう、日が傾きはじめていた。まずい、夜になれば灯りのない森は真っ暗だ。


 僕は焦燥感に駆られながら食べ物を探した。


 ウサギをみつけた。魔法で燃やしたら逃げられた。


 鳥をみつけた。石を投げたがよけられた。


 実っている木を探した。そう都合よく見つかるわけがなかった。


 なにかないか探しまわった。駆けずりまわった。

 汗をかいてノドが渇いただけだった。


 そしてとうとう恐れていた事態が訪れた。


「夜だ……」


 明かりとなるものは、月と星だけの自然界の夜。

 木々から伸びる枝葉に空を覆われた森ともなると、それは漆黒の闇というに相応しかった。

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[良い点] 「死ぬ前に生きたい」 この名言、気に入りました! 主人公の生きたいという純粋な気持ちが地の文からもよく伝わってきます! [一言] Twitterの企画から来ました。 とりあえずここまで読ま…
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