プロローグ:慟哭
「どうだ、僕は賢いだろ、回復魔法が使えるんだから」
精一杯強がろうとして口から出した言葉を耳にして、僕は恥辱感と屈辱感に嗚咽した。
僕は人々に与えた苦痛は知っていた。
僕は人々に与えた屈辱は知っていた。
僕は人々の羨望を知っていた。
僕は人々の欲望を知っていた。
僕は人々の嫉妬心を知っていた。
僕は人々の報復の手段を知っていた。
だが僕は身を護る手段を考えなかった。
僕は馬車で移動する生活に慣れきっていた。
僕は馬車に護られる生活に慣れきっていた。
僕は衛兵に護られる生活に慣れきっていた。
僕はカネに護られる生活に慣れきっていた。
僕は父の後ろ盾に護られる生活に慣れきっていた。
僕は護られる生活に慣れきってしまっていた。
街なかで襲われたはずなのに、人々は通報しなかった。
嘲笑の声は聞こえた。
街なかで襲われたはずなのに、人々は助けようとしなかった。
侮蔑の眼差しは浴びた。
剥ぎとられた服を着なおした。
公衆の面前に恥部を晒したことを実感した。
家柄を脱ぎ捨てた自分を省みた。
なにも持ち合わせない無力な弱者だった。
家柄を捨てたはずだった。
父から授かった回復魔法に命を救われた。
嗚咽は慟哭へと変わった。
外の世界に夢を見た。
非情なる現実を突きつけられた。
刺激を求めていた。
恥辱感と屈辱感を求めてはいなかった。
己が持つ力を知りたかった。
己の無力なんて知りたくなかった。
出戻りを考えた。
どの面をさげて向き合えばいいかわからなかった。
この街で生きる術を考えた。
殺される確率が高過ぎた。
街の外で生きる苦労を考えた。
浴びている視線の恥辱感が上回った。
生きれるか自分に問いてみた。
屈辱感に答えきれなかった。
死ねばなにを失うか考えた。
僕はすべてを失っていた。
「もう死んでもともとだ、だが死ぬまえに、生きてやる」
僕は街の外で生きることを決意した。