表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/40

自由への旅立ち

 これは当然の末路だよ、あまりにも弱い生き物の。お兄さんみたいな、弱い生き物の。


 僕はお兄さんみたいにはなりたくないな。僕は生きたい。


 死ぬまえに、生きたい。




 さて、向かうさきはカジノ。


 お兄さんありがとう、カジノって素晴らしい場所なんだよね。「行かないと死んでしまう」場所だもんね。

 お兄さんありがとう、最期まで。お兄さんが教えてくれたもんね。


「おのぼりさんがソワソワしてたら気前のよさそうなおじさんがルーレットへ連れていく。

 そしてある程度勝たせて図に乗らせたあと、裏でおじさんとグルになってるディーラーに尻の毛までむしり取る。その光景はとても面白い」


 って。


 ルーレットは運なようで運ではないんだって。

 プロのディーラーは狙った場所に落とせる。

 だから通い慣れてるひとは座らず席がいつも空いていて、おじさんは簡単におのぼりさんを席に誘える。


 初心者は最初ほぼ赤か黒かで賭けたがる。こればかりは完全に運で、ディーラーも一点も違わずには落とせないから二分の一を勝ったり負けたり。


 頃合いをみておじさんが手本を見せる。


「ルーレットは傾向をみて落ちそうなところの周辺いくつかに賭けるんだよ、1点賭けの6点張りがいちばん勝ちやすい」


 そう言ってまず落ちそうな数字を予想し、その数字とその前後に位置する数字5個に賭ける。実際に落ちた数字以外はハズレになるわけだけど、1点賭けは配当が36倍だから賭けた額が6倍になって返ってくる。

 たまにハズレて、ハズレても「惜しい」ハズレかたをするのがミソで、そのもっともらしさがおのぼりさんを信じこませる。


 本当はディーラーがそう見えるように落としてるだけなのに。


 おのぼりさんが信じこんでそう賭けだしたらディーラーの腕とおじさんの話術が本領発揮。最初は惜しいところでハズレていた予想がおじさんに檄を飛ばされながら賭けていくと次第に当たることが多くなる。

 当たることが多くなりだしたらおじさんがおのぼりさんを褒め讃えだす。


 「いいセンスだ、才能あるよ」


 って。

 そうすると気をよくしたおのぼりさんの賭け額が次第に大きくなっていき、負けるたびに負けた額の倍を賭けだしたところで手のひらくるり。


 だんだんと負けることが多くなっていくなか、おじさんが檄を飛ばす。さっきまでの集中はどうした、おまえはやればできるはずなんだって。

 その頃にはおのぼりさんは完全にその気になっていて、クスクスとそれを嘲笑う常連の声すら耳に入らなくなる。

 目が血走りだす。


 本当はディーラーがそう感じるように落としてるだけなのに。


 知らずのうちにディーラーがいちばんハメやすい賭けかたをさせられていた、そう気付くのは有り金すべてはたいた涙ながらの帰り道だって、まるで自分の体験談かのようにお兄さんは話してくれた。



 お兄さん、最期までありがとう。人生最初で最後のカジノ、楽しかったよ。

 もうね、時が来たらおじさんが実にわかりやすく励ましにかかったの。ホントに言うんだね、笑っちゃった。


「おまえはやればできるはずなんだ」


 って、まるでスポーツかなにかのように。


 手を引くチャンスとして実にわかりやすかった。


 お兄さんはカジノに食べられて、そのカジノを僕が食べた。本当の勝負師は、勝てる勝負しかしないんだよ。


 さすがに今日はもう遅い、得たお金の使いみちは明日考えるとして、今日は宿を探してゆっくり休もう。


 そう思っていた矢先だった。


「ねーねーカッコいいオニーサン、俺たちと楽しいことして遊ばない?」


 僕の首に刺青の入った腕が後ろからかけられる。


 しまった。油断していた、気が大きくなっていた。


 いま僕は、衛兵もつけずに夜の街をひとりで歩いていたんだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ