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決戦(中編)

「さて、この優男は邪魔ですな。大人しく落ちて死んでもらえますかな」


「うわあああ!」


 俺は蹴破られた窓から投げ捨てられた。最上階からだった。


 落下しながら俺は最も危惧すべきことを考えた。捨ててもいいものを考えた。

 両足を地面に向けて着地した。転倒したが、頭を腕でかばった。


「ぐああああ!」


 すでに折れていた腕が砕け、いちばんに衝撃の乗った両脚は、折れた骨が皮膚を突き破った。

 骨盤もあばらも背骨にも、おそらくヒビが入ったであろう痛みが走った。


 だが、あのときと、姫さまと決闘したときと違うものがひとつあった。


 声を出せた。意識と呼吸器官を、守りきれた。


「気絶せずに済んだ、声を出せる、ならば詠唱できる」


「……キュアオール!」


 俺は不死身だ、回復魔法がありさえすればな。

 これは賭けだが、どうか油断していてくれ。仕留めたつもりでいてくれ。

 裏切り者は裏切り者らしく愚か者であってくれ、あのロクデナシのように。


 俺は復活に気付かれぬよう、忍び足で城門へと向かった。

 城門には、今日は姫さまが衛兵をふたり配置していた。姫さまは最初からこの事態を想定していた。


「兄上の仇敵たる蛮族は、収穫祭の夜再びここを襲撃するであろう。俗物どもは、昨年味をしめたはずだ」


 そう姫さまは仰っていた。全くの同感だった。


「……くっ……」


 衛兵さんはふたりとも、クロスボウでやられていた。ひとりは兜越しに頭部を深々と射抜かれており、即死したことがうかがえた。

 もうひとりも、胸を射抜かれ虫の息だった。


「衛兵さん……、まだ生きてますか……?」


 俺は声を潜めて話しかけた。


「ああ、だがもう長くない……、姫さまを……、護ってくれ……」


「いえ……、衛兵さんもすぐに助けますが、ひとつ条件として、騒がないでもらえますか?」


「? ……とりあえず静かにだな……?」


「……キュア」


 俺は衛兵さんの胸から矢を引き抜き、回復魔法をかけた。


「そうか、おまえ回復魔法を使えるんだったな」


「引き続き静かにお願いします。次は、メイドさんの部屋です。なるべく音を立てたくないので、甲冑は脱いで剣だけ持ってください」


「ああ、従おう。なにやら手立てがありそうだからな」


 不幸中の幸いは、蛮族の人数と、とるであろう行動を想定できていることだ。

 なぁ、クソガキ。おまえの母ちゃん、すぐには殺されなかったんだろ?


「うん、お兄ちゃん」


 蛮族どもは、まえの人員が4人、今回の人員がそこからロクデナシを引いて3人。あの姫さまの部屋を襲撃した、いかつい老人が元団長だろうから残るは新兵ふたりだろう。

 なにせロクデナシを置いてけぼりにするほどのケチ共だ、増員している可能性は想定しなくていい。


 で、あらかじめ下調べしたなかで衛兵の殲滅に成功したわけだよな、若い下衆野郎ふたりは。

 で、非戦闘員の部屋に侵入したわけだよな。

 なにより事実として、去年そうしてたらしいしな。


 抜き足、差し足、忍び足。行く先は俺の部屋のとなりのメイドさんの部屋。

 予測どおり、案の定。俗物どもめ、その低脳を恥じるがよい。


「永劫の時を生けりし不死鳥、フェニックスよ……、我を贄とし、現世の穢れを御身に纏いし炎にて焼き払いたまへ……、ピュアリファイア!!」


 メイドさんをじわじわといたぶっていた男ふたりと、メイドさんの脚を射抜いていた矢がみるみるうちに灰燼に帰せた。

 詠唱時間の長さ、詠唱に極度の集中が求められることが弱点だが、詠唱にさえ成功すれば対象のみを焼滅させる最上級攻撃魔法、ピュアリファイア。奇襲であれば、その弱点すら埋まる。


 ぶっつけ本番だったが、部屋とメイドさんは無事だった。


「くっ……、ふぅ……」


「奉公人さん! 大丈夫ですか?」


 俺はがくりと膝が落ち、衛兵さんに肩を支えられた。メイドさんの声に気を保ったが、危うく意識が飛ぶところだった。

 やはり最上級攻撃魔法は、使用者への負担が大きい。


「大丈夫です。ただ……、魔法はもう使えそうにありません」


 死にかけの身体への回復魔法を2回と、さらに最上級攻撃魔法。割れんばかりに頭が痛み、立っているだけで膝ががくがくする。


「それよりも、早く姫さまのもとへ戻らねばなりません。姫さまは、お一人で蛮族と対峙なさってます」


 俺はいちど自室に戻り、両手剣を手に取った。


「何のための修練だった? この日役立てず何のための剣だ」


 そう思うと、再び全身に力がみなぎった。

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