ご令妹さま
「二方とも足労であったな。いつまでも玄関で立ち話とあっては辛かろう、案内するから付いてまいれ」
この人がご令妹さまかな? いまのところ特に問題はなさそうだけど。
「かけるがよい」
促されるまま対面に座る。端正な顔立ちと毅然とした態度に面と向かうだけで気圧されそうになる。
「先ほどは、父上がすまなかったな」
「いえ、とんでもないです」
「下の兄は、父上にとっていちばんのお気に入りだったのだ」
「この家も、父上は下の兄に継がせるつもりだったのだが、下の兄は上の兄を立てるためそれを拒んだ」
「能力実績至上主義の父上は終始周囲の反対を押し切る構えだったが、下の兄が断固として拒否したためこの家は上の兄が継いだ。
無論、上の兄が無能というわけではない。だが、世間体を無視したくなるほど下の兄が優秀だったのだ」
「であるから、この度の訃報は『この家を出て行かなければ下の兄は存命できたのではないか』と考えると父上にとってあまりにも無念な話だったのだろうな」
……そうだったんだ。にしても領主さまの評判は本当にいいな。
「ではあらためて、ここに来た目的を聞こうか」
「はい。逝去なさったご次兄さまに代わり、貴女さまに街の領主となって頂きたく参上しました」
「その理由は?」
「まず現状として、私たちも含め街には統治する器にある者が誰ひとりと居りません。ご次兄さまの行った統治は私たちには難しく、また地元民は改革がもたらした急激な変化についていけずにおります」
「ふむ」
「次に、領主不在とあらばいつ野盗の標的となるかわかりません。
街の民たちは生活の水準の向上にその管理が追いついておらず、それもまたご次兄さまに丸投げしていたのが現状にございます」
「なるほどな。しかし、それにしてはよくその問題点に気付けたものだな。自ら気付いた点においては慧眼と言ってよいぞ」
「ありがたきお言葉です。2点めの問題点に関しては、こちらの旅人が指摘したものでございます」
「ほう?」
「お兄ちゃんは、自分がヒキョー者だからヒキョー者の考えることがよくわかるんだよ、おばちゃん!」
せっかくひとが気持ちよくなってたところに余計なコト言うなよ。
「お褒めの言葉ありがとうございます。ご紹介にあずかりました旅人です」
「ふむ。ここまでなかなかの距離であったであろうが、よくぞここまで参ったな」
正直一宿一飯の恩義と、なりゆき。
「そうですね、ご次兄さまの街にお世話になったからです。
ご次兄さまの街は旅人のための街として実に素晴らしい街であり、ご次兄さまの逝去をきっかけにこのまま瓦解させてしまうにはあまりにも惜しいと思ったからです」
「さすがお兄ちゃん! 素晴らしい二枚舌だね!」
さっきから鬱陶しいな、クチをはさむなよ。
「ふむ。では、なぜ妾を選んだのだ」
駄目もと。ほかにアテがなさそうだったから。
「そうですね……」
「待て、妾は旅人に聞いておる。お主は人柄と面倒見の良さがお人好しの下の兄と相性が良いとみて父上が兄に随伴させたが、頭は期待しておらぬ」
団長さん、ここに来てからさんざんだな。
「月並みですが、領主さまの実妹だからですね。
領主さまと血の繋がりをお持ちである方なら、領主さまと遜色ない教養と聡明さを期待できると踏んだからです」
「おばちゃん、この人に気を許したらダメだよ! 食べられて殺されちゃうよ!」
だからうるさいっての。それと妙齢の女性におばちゃんは言葉に気を遣わなさ過ぎないか。
「それはあまりにも考えが短絡的である気がせぬか?」
「いいよおばちゃんその調子!」
黙れクソガキ。それよりここは正念場だ。なんとしてでもその気にさせねば。
「そうかもしれませんが、闇雲に適当な貴族をあたるよりはまだ良いかと思われましたから。
少なくともです。この場で貴女さまが、気配りのできる方であること、人をよくご覧になっている方であること、そのうえで凛とした立ち居振る舞いをされる方であることは確たるものであることと認知いたしました」
お願いだから飲んでくれ。来た道を何も得ずしてまた歩きたくない。
「ふむ、悪くはない。だが条件が3点ほどある」
「おばちゃん……、この人ホントは人でなしなんだよ……」
余計な声はおいといて、飲めるものであればどうぞ。
「ひとつ、この城から衛兵を2名随伴させ近衛兵として常駐させてもよいこと。
ひとつ、妾の世話役は引き続きこのメイドが行うこと」
よいぞよいぞ、苦しゅうないぞよ。
「もうひとつ。旅人よ、父上にしていた話を聞いていたのだが、兄上の仇敵のひとりを斃したそうだな?
妾と一戦交え、その実力を証明してみせよ」
え? え〜? 聞いてないよぉ……。




