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退屈と無関心は人を殺す

「ああ、3日ぶんでいい。なに、あちらさんも追いかえすにあたって旅支度くらいはさせてくれるさ」


 そうだよな、いままで奇跡的に移動距離が少なくて済んだんだ。というかやっぱり余計なこと言っちゃったな。




 ――つらい。脚が棒のようだ。領主の実家を目指す旅にでて3日め、途中で宿屋には笑われた。「あんた、本当に旅人かい?」って。余計なお世話だよ、旅してること自体が当初の想定外なんだよ。


「そういえばお兄ちゃんずっとツラそうなのにめげないよね、なんで?」


 なんでって……、事情が事情だろ? ドロンとかできないじゃん。


「なんかまずその考えかたがお兄ちゃんらしくなくない? お兄ちゃん、自分さえよければそれでいい人じゃん」


 まあ……とくに行くアテがあるわけでもなかったし? やりたいことがあるわけでもなかったし?


「ん? なんかえらいボーっとしてんな? ちゃんとエール飲むとき塩なめてっか?」


「そこは心配いらないです、脚はだるいですけど」


「なら気合いれて歩け、もうそんな遠くはないから」


 初日に腹を下してそれを教わった。塩なめながら水分をとらないとそうなるんだと。

 理屈はよくわからないが、確かに塩をなめてから食事がノドをすんなり通るようになった。


「お兄ちゃんさ、いま、後悔ってしてる?」


 え? おまえを殺したこと?


「ちがうよ、『家出なんてしなければよかった』って。

 家出しなければ、今ごろ部屋でぬくぬくのびのびだったじゃん」


 そうだな……、言われるがまま勉強して、言われるがままに家に居て、そのなかで出来ることしてヒマつぶして……、腹刺されて死にかけることもなくて……。快適っていえば快適だったかもな。


「でしょ?」


 でもなんていうか、生きてる気がしなかったんだよ。植物となにが違うんだよって感じで。

 植物ってさ、種が落ちたところに根を張って、芽を出して。んでそれからはただ枯れるまで咲いてるだけ。その間天災に見まわれたり動物に食べられたりしたら、為すすべもなくハイおわり。

 それとそのころの俺ってなにが違うんだろ? っていまでも思うもんね。


「それのなにがわるいの?」


 なんていうかなぁ……。脳を動かせるのに何に動かせばいいかわからないというか、身体を動かせるのに何に動かせばいいかわからない……みたいな空しさがあったんだよ。

 それが一生続くとなると、いずれは母ちゃんみたいに考えることなんてとうに忘れて食欲と性欲に身をゆだねてブクブク肥え太りながら間男との間にデキた子供を焼き殺すだけの人生になっちゃうんだろうなって怖さもあった。


「いまは?」


 あの頃とはちがう意味で、何したらいいかわからないよ。これから先どうなるかもわからないから。

 いま向かっている先だって、団長さんには馴染みの場所かもしれないけど、俺は初めてだもんね。


「ふふ。お兄ちゃん、死ぬまえに生きたいんだよね?『生きれて』る?」


 んだよ、クソガキが偉そうに。


「見えてきたぞ、あそこだ」


 堅牢な城壁に囲まれたなかからひときわ高くそびえ立った城の天辺が顔を出す、いわゆる城郭都市。


「ずいぶん立派なところですね」


「あぁ、昔は敵国の要塞だったからな。

 領主さまのご実家の先代領主さまが、戦争の際に矢を何本受けようが腹を刺されようがいっさい怯まず最深部まで一気に駆け抜けて陥落させた。

 その後先代さまが、国王さまからあの地を安堵されて今に至るわけだ。

 当時俺はまだ新兵だったのもあって、回復薬を何本も腰からさげて猪突猛進していくサマは鮮烈だったよ」


 なかなかの武勇伝だが、問題はご令妹さまだ。話の通じる相手でありますように。

 

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