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守り抜く力(後編)

「もうこの街は終わりだ、なす術もなく朽ち果てる一方だ。

 田舎者では何が何だかよくわからないほどに改革を進め管理していた外様の領主さまも、それを持ち前の頭脳と教養で支えたクソメイドももうこの世に居ねえ。

 他の衛兵たちは一生遊んでも使いつくせないカネを手に入れてちゃっちゃと出ていったが、俺は毟れるかぎり毟ってからにするよ。

 いつかこの街が朽ち果てるその日まで、かつてこの街を守り抜いた威光でな」


 長々とありがとう、他人のコトを言えた義理かどうかはわからないがおまえが救えないクズだってことはよくわかった。


「お兄ちゃん、こいつ殺して」


 さっき「逃げようよ」って言ったのはどこの誰だよ。


「で? そんなボーっとしてていいのか? それともビビって動けねぇか?」


「僕が刃先から意識を離した瞬間に刺すつもりだったんだろ? 命を賭して仕えるべき主君に手をかけた人でなし相手に油断できるか」


「てめーのちゃちな命なんか要らねぇよ。さっさと全財産寄こすか殺されて全財産奪われるか賢く選べ」


 僕はダガーの先を向けたままオモニエールの紐に手をかけ解いた。


「お兄ちゃん、渡しちゃうの……?」


「なんだ話せばわかるじゃないか、コトが済んだら一杯くらい奢ってやるよ」


 殺気の隠しかたは先日の野犬との対峙で学んだ。僕は顔面めがけてたっぷりと金貨の詰まった革袋を紐を持って振り抜いた。


「たっはぁ〜危ねえな。当たったら無事じゃ済まなかったな、当たったら」


 だがあっけなく空を切った。最初で最後のチャンスの奇襲は失敗に終わった。下衆野郎は奇襲に強い。


「こっちはトーシロじゃねぇんだよ。相手の表情や雰囲気なんざアテにする奴は闘技場で決闘ゴッコやってろってんだ」


 その点に関しては同感だな。僕が剣技の授業に身が入らなかった理由のひとつだ。


「冥土の土産に見せてやるよ、プロの戦いかたってやつをよ」


 男はナイフを持った右手を後ろに引き、左手の甲をこちらに見せるように半身に構えた。ダガーを持ったこちらの左手の甲に滑らせるように左手の甲を絡ませてきた。


「……!!」


 ぞくりときた。僕は直感的な危機感で後ろに下がった。まるで蛇に絞め殺される獲物になったような気分だった。


「坊っちゃんよぉ〜なかなか勘がいいじゃねぇか、間違って俺様の腕を斬ろうとしてたらその腕掴まえられて刺されてたぜ?」


 相手は曲がりなりにも元衛兵だ、戦闘のプロだと実感する。不用意なマネはできない。


「蛇に睨まれたカエルだな、そんなにビビらなくても潔く殺されてくれればいいんだよお坊ちゃん?」


 男は左拳を握りしめ構えた。気を取られるな、食らったらまずいのは刺突と斬撃だ。そう思った刹那肘から先だけで振られた拳がアゴを揺らした。



 一瞬だけ視界が揺れた、視界が戻ると僕は血を吐きながらうずくまっていた。


「お兄ちゃん! 死んじゃだめだよお兄ちゃん!」


「あ〜あ、トーシロはあっけねーなー、拳闘なんて見たこともなかったか?」


 腹を深々と刺された。いちばん警戒していたはずだった。視界を揺らされ防げなかった。致死量まで出血すれば僕は絶命する。間にあってくれ、詠唱。


「ハナっから素直にカネ渡してくれればよかったのによ、弱い生き物が強がるからだ」


 もてあそぶように爪先で腹を小突かれた。全身に激痛が走る。詠唱を止めるな。


「ん? ま〜だ息があるのか? とっととくたばれや!」


 今度は全体重を乗せた蹴りだった。回復魔法が傷口をふさいでいる最中だった。これは賭けだ、詠唱を止めるな。


「ま、いいや。カネだカネ。死体は街の連中が適当に処分するだろ」


 詠唱が完成した。これは賭けだ、今度こそ最後のチャンスだ。僕は勢いをつけて起き上がった。


「フロスト!」


 賭けに勝った。油断していてくれた。仕留めたつもりでいてくれた。蛇のような男は面くらった顔をしていた。両眼のまわりを凍らせた男の腹には刃先が深々と刺し込まれていた。


「素人はあっけないね、魔法なんて見たこともなかったかな?」


 ()は深々と刺し込んだダガーを抜き取り再び腹へと刺し込んだ。俺は強い生き物だ、強い生き物は獲物を仕留めきるまで油断はしない。


 男が腹を押さえてうずくまる。俺は片手で受け止めた。今度はノドへと刺し込んだ。俺は強い生き物だ、強い生き物は獲物を仕留めきるまで油断はしない。


 蛇のような男は身体をびくりと痙攣させた。まだ動く以上油断はできない。俺は腹へと刺し込んだ。

 男は動かなくなった。俺は強い生き物だ、雰囲気なんかで油断はできない。俺はノドへと刺し込んだ。


 その後も俺はダガーで刺した、腹腹ノド腹腹ノド腹腹ノド腹腹ノド腹腹ノド腹腹ノド腹腹ノド腹腹ノド腹腹ノド。


 そうするうちに、蛇のような男の腹部が貫通された。弱い生き物の臓物片が飛び散っていた。

 

「きっと絶命してくれているだろう」


 俺はそんな期待を込めた。頸動脈をかき切った。血が吹き出ないでいてくれた。



「俺は強い生き物だ、殺しながらでも生きてやる」



 血まみれのなかでそう決意した。



   ―― 第二章:力ある自由 the end ――

 これにて第二章完結となります。予定ではこの話の折り返し地点です。


 是非とも最後までお付き合いください、よろしくお願いいたします。

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