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守り抜く力(前編)

「オニーサンずいぶんと景気良さそうじゃないか、俺にもお小遣いくれないかな?」


 僕は後ろから首筋にナイフをまわされ突き立てられた。過去の記憶が悪寒を走らせた。


 嫌な予感を振りはらうように周囲に目をやると、今回はこいつひとりのようだった。


「はじめに利き手の自由は奪っておくべきだったんじゃないか?」


 僕は腰に提げたダガーを片手で引き抜き、男の太腿めがけて突き立てた。男が身をよじってかわしてできた隙をついて間合いを離し、男と僕は互いに刃物を握った状態で対峙した。

 剃髪した頭と鋭く尖った三白眼、長くしなやかに動く手足に蛇のような印象を受けた。


「それは迂闊だったな。おまえ、見た目の割に肝がすわってるじゃないか」 


「お兄ちゃん、いまのうちに逃げようよ」


 逃げたほうが賢明なのは明らかだった。だが足が下がってくれなかった。


「オニーサンさ、その腰の金貨全部ちょうだいよ、そしたら命までは獲らねーから」


 男が獲物を見つめる捕食者の目でこちらを見つめる。「舐められたくない」、そんな些細なプライドに抗えない。


「オニーサンさ、景気いいんでしょ? 昼間から銅貨数枚で買えそうなモノひとつひとつ金貨で買っていってさ、ここの領主のメイドのバカ女思い出しちゃったよ」


「バカ女?」


「そ! 街じゃウワサになってたんだぜ? 『メイドが領主たぶらかして好き放題やってる』ってな?」


「もともとここの領主さまは名君でな、婿入りして先代から家督を引き継ぐや否やここをただの田舎町から交通の要衝へと変えたんだ」


「まず粉をひくための水車や公営のパン焼き窯のような公共設備に私財を惜しみなく投じ、行商人が商売しやすいように市場の整備と直属の衛兵による警ら網を設けた」


「ここに住む誰もが心配したんだぜ? 『ありがたいけども領主の財政は破たんしないのか』って」


「ところが実際そうはならなかった。領民の生活水準の向上は税収の安定と向上につながり、整備された市場は長旅で疲弊した際の中継地点として旅人や行商人から多額のカネを落とさせた」


「そこまでの算段があったかどうかは知らないが、カネからカネが生まれ領主さまはあっさりとモトをとった。名君の登場に人々は歓声をあげたよ、あの日まではな」


 まさしく名君だな、領民からしたら突如として現れた救世主といったところか。


「あの日といってもコトの始まりは遡ること十余年もまえになるがな。急にメイドのひとりの羽振りがよくなったんだよ」


「先代の実娘にあたられる奥方様が病に伏されてから、領主さまのそばにあるメイドがついて回るようになった」


「誰もが目を疑ったぜ?あくまでも格好はメイドなのに、さも正妻であるかのような振る舞いを周囲に見せつけるようにするんだからな」


「尤もそのまえから噂は立ってたがな。世間知らずの箱入り田舎娘の奥方様よりも、選りすぐりのエリートを補佐役として雇い入れたメイドのほうに、領主さまは傾倒してるって」


「ママのことだ……」


 頭のなかで声が聞こえた。


「だがそのバカ女はとんだ成金趣味だった。私生活で高価なドレスを纏い、イヤミのように市場の品々を金貨で買っていったりする立ち居振る舞いは周囲の嫌悪感をとことん煽った」


「それでも領民は耐えた。直接的な実害はなく、以前とは比べものにならない水準に向上した生活を手放したくはなかったから」


「だがそれにも限界があった。十余年経ち限界を迎えたのは衛兵だった。

 カネの成る木を眺める目で襲いかかってくる盗賊から命懸けで街を守りながらもらう日当、その何倍もの額をメイドがその街で散財する姿を横目で流す日々のストレスは耐え続けられるものではなかった」


「ある日俺たちは決意したよ、『こんな思いをする日々を送り続けるくらいなら自分たちで邸宅を襲撃しちまえ』って」


「もうこの街は終わりだ、なす術もなく朽ち果てる一方だ。

 田舎者では何が何だかよくわからないほどに改革を進め管理していた外様の領主さまも、それを持ち前の頭脳と教養で支えたクソメイドももうこの世に居ねえ。

 他の衛兵たちは一生遊んでも使いつくせないカネを手に入れてちゃっちゃと出ていったが、俺は毟れるかぎり毟ってからにするよ。

 いつかこの街が朽ち果てるその日まで、かつてこの街を守り抜いた威光でな」


 長々とありがとう、他人のコトを言えた義理かどうかはわからないが、おまえが救えないクズだってことはよくわかった。

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