プロローグ:運命を感じるよ
「残念ながら僕は僕だよ。弱いんだけど、きみよりかは弱くない生き物、それが僕。さて寝るまえに締めてしまうね。残りは明日、食べてあげるよ」
僕は首筋に手をかけた。
運命を感じるよ、初めて僕がきみと出逢った場所もここだった。
運命を感じるよ、僕はきみをここで救った。
運命を感じるよ、きみは僕をここで救った。
運命を感じるよ、ここで僕はきみの血を止めた。
運命を感じるよ、ここで僕はきみに血を流させた。
運命を感じるよ、ここで僕はきみに希望を与えた。
運命を感じるよ、ここで僕はきみを絶望させた。
きみは生まれてならない命だった。
パパとママの間違いだった。
パパは家を滅された。メイドとともに間違えたから。
ママもついでに殺された。主人とともに間違えたから。
きみは食べられ殺された。間違いの子どもだったから。
きみはおカネを持っていた。僕におカネが要ったから。
きみは殺せば肉だった。僕のお腹が減ったから。
「これが偶然といえるかい? 僕は運命を感じるよ。きみは死ぬべきだったんだ」
僕は事切れずとも光を失っていた目をみてそう呟いた。
ざまあみろとは言わないよ、僕の手によるきみの死こそが僕の救いだ。
でもやっぱりナイフは要るな。腕一本食べるにも、いちいち関節外して肉を皮を引きちぎるのは面倒で疲れる。
そうだナイフを買いにいこう。きみの生まれたあの街へ。
きみが教えてくれたんだ、人の目は、侮蔑するとは限らない。
きみが教えてくれたんだ、人の口は、嘲笑するとは限らない。
「僕は生きれる、人を殺して食べたから」
僕は小さな女神さまの、もう冷たくなってしまった頬へと最初で最後のキスをした。