決意
「正反対だなあ・・・バル・バコアの街と。」
ソラはそうつぶやいた。
「そして、どことなく、ザッハ・トルテにも似てる・・・。」
ハルが少し間をおいて被せる。
「・・・そうなの?」
とレイが聞く。
「いや・・・何でもない。オレの思い違いだ・・・。
忘れてくれ。」
たしかに、四人は、これらの幸せになれる善き心のルールを心に刻み、それを生きることが出来るように誓った。
ただ、ハルの〈トゲ〉がズキズキと痛む。
なぜかはわからない。
なぜだ。
ああ、確かに認めよう。
これは、人間が歩むべき幸せになれるルールだ。
嘘ではない。
決して嘘ではない。
オレの〈善いこころ〉は、たしかにこう生きるべきだとオレに命じ続ける。
オレはそれに従いたいし、従うべきだ。
その実現に向けて全身全霊を込めて努力をし続けていくようにオレたちは呼びかけられている。
なぜなら、それは、善いことだから。
その善きことに向けて、オレの〈こころ〉は畏敬と憧れの念を抱く。
善を生きるように、生き方を駆り立てる。
しかし・・・なぜ。
なぜ、オレはこの善き生き方に対して何か心苦しいものを感じてしまうのだ?
・・・いや、よそう。
これは、オレのまだ克服できていない弱さからくる言い訳に過ぎぬ。
人が、痩せようと思い、それに向かって努力すれば痩せることはできる。
武芸や勉学に志を立てて、確固たる意志をもって日々それを実行に移せば、我々は自分自身を変えていくことだって大いにできるではないか。
たしかに、完璧にできることはない。
そんなことは分かっている。
しかし、一歩一歩薄皮を重ねてゆくように、成長してゆくことはできるだろう。
それに対して負い目を感じるのは、ひとえに、変わりたくないという自らのうちの弱さであり、言い訳にすぎない。
そう・・・そうだ。
オレは変わろう。
自らの力で、このトゲを抜いてみせよう。
自らの力で、この幸せのルールを生き切り、自らを全く違う人間に生まれ変わらせよう。
弱さを克服していくのだ。
ハルは、心の中でひそかにそうした決意を思いめぐらせることにした。
「あれ?なんだか、ハル・・・前に比べて変わったね。」
ウミが気が付いた。
「そう?そうかな?」
「うん。かわった。
前は、暗い感じがしたけれど、今はなんだか前と違って、明るくなった。」
そう言われて、素直に喜べばいいものの、ハルの〈こころ〉のうちに、再び〈トゲ〉が突き刺さった。
その〈トゲ〉は、ハルに語り掛けた。
「変わったね・・・
前は、○○だったけれど、今は、”ザッハ・トルテ様好みの”明るいあなたになったんじゃない?」
〈トゲ〉がこころに刺さりはしたが、ハルは意志をもって、笑顔をつくった。
「ありがとう。」