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善き心を持つ人々の村

マスターを後にして、四人はダイモンの導くままに、旅に出た。

その導きは、〈はじめのこころ〉と呼応し、響き合っていた。


「千切れて世界に散らばった宇宙のメロディーのかけらを再び集めること。

そして、私たちのうちにある〈トゲ〉を抜き、解放してあげること・・・。


それは、私たちのそれぞれを救い出すだけでなく、この世界に再び失われた調和を取り戻すことになるはず。」

レイが言った。


「それだけではないわ。

きっと、失われたメロディーは、その失われたこと自体さえも利用して、もっともっと美しく完成された旋律を奏でてくれるはず。」

とウミ。


「新しい冒険がはじまる。

しんどいことも苦しいこともあるかもしれない。

だけど、僕たちはそれを乗り越えてどこまでも成長していける。

ワクワクするなあ!」

とソラ。


ハルは、気持ち的に三人から少し離れたところで、下を向きながら自分の世界の中にこもって無言のままのそのそと歩き続けた。


歩き続けて、バルバ・コアの国から、ザッハ・トルテの国から、どれだけ遠ざかったことか。

山々を抜けて、どこまでも花畑が絨毯のように広がっている。


「ああー、そういえばなんだかこの風景は僕の田舎のメープル村に似てるなあ。

懐かしいなあ。

みんな元気にしてるかなあ。」


彼らのダイモンはそろって、近くに「失われたメロディー」があることを告げた。


「へえ、案外近いんだな。」


ほどなく歩くと、牧歌的な村があった。

小川が流れ、緑に囲まれており、林がある。

村の真ん中に、小高い聖なる塔があるだけで、あとは、素朴な家が建ち並ぶ。


「へえ、メープル村にそっくりだなあ・・・

というより・・・え!

ここは・・・僕の故郷じゃないか!」


ソラは驚いて叫んだ。


「ということは、マスターについていって、ウミのティラミス国に行って、そこから船に乗ってレイの島に行って、バルバ・コアに行って、ザッハ・トルテに行って、そこからまたずっと旅をしてきて・・・また一周して僕の村に戻ってきたってことか!?」


「へえ、ここがソラの村なのね。とっても素敵な村ね。」

ウミもレイもハルも周りを見渡している。


人々は、ソラの友人である旅人たちを笑顔で迎え入れてくれた。


そこは「善き心を持つ人びとの村」であった。


一度マスターの訪問を受けた村人たちは、以前よりもますます感じがよくなっていた。


「ああ、天国というものがあるとしたらこういう場所かもしれないね。」

ウミはこの村をほめて言った。


ソラが、ティラミス国の姫と旅をしていることを知った村人たちは、びっくりした。

それに、今まで地図にもなく、誰も知らない島からやってきた女の子に、

あとは、壁に閉ざされた国から逃げてきた少年が一緒ということで興味津々だった。


「ところで、マスターに出会ってから、私たちは皆でこのような生き方を心掛けようと決めたのだ。

村長が、このことを尊重しようと言うことで、な。」


「村長が・・・尊重・・・そうですか。」


「みんなで、他の人を幸せにすることを考える。

そういうことだ。」


「他の人を幸せにすることを考える・・・。

ものすごくシンプルですね。

そんなことでいいんですか。」


「マスターはいつもおっしゃっていた。


「本当に大切なことはいつもシンプルなことにあんねんで。

〈はじめのこころ〉のことを一生懸命〈たいせつ〉にすんねんで。

自分にしてほしいことを何でも人にしてあげなはれ。

人からされたくないことは人にもしたらあかんで。


〈はじめのこころ〉は〈みんな〉の幸せを願ってはる。

そして、その〈みんな〉のなかには、ほかならぬあなた自身がふくまれとんねんで。

もちろん、自分さえよければというのはあかん。

やけど、自分さえ我慢すればっていうのもあかんで。


自分も自分にかかわりのあるすべての人が幸せになれるような生き方が〈はじめのこころ〉にとっての正解や。

そんな生き方をしてる人には、天からごほうびがあるで。


なぜか、危ない時に守られたりとか、物事がうまくいったりとかね。」」


村人は、みんなこのマスターのセリフをすっかり覚えてしまっていた。


「なるほどー。

それにしてもよく、そんなことを覚えていますね。

まるで、マスターが乗り移ったみたいですよ。」

ソラは驚いて笑った。


「マスターの言葉はなぜか覚えてるんだよなあ。」


四人とも、そのシンプルな教えに触れるだけで、深い喜びに包まれた。

そして、それを日々の生活の中で行っていくことそれ自体が、幸福に至るための王道であると確信した。



ソラは、自分がよく一人で佇んでいた丘の草原まで三人を案内した。


墓地の門をくぐり、その先を超えていき緩やかな坂を上っていくと、その先には波打つような大草原が広がっていた。

風が草を揺らす音が何かを伝えてくれているようだ。


四人は、近くにある塔に昇り、沈みゆく太陽を眺めていた。


大地は黄金色に染まり、空から、あたたかい光が降り注いだ。

同時に、メロディーとともに、言葉が流れてきた。



「いいかい。

これから示すこのことは、人間が幸せに生きるための法則だから、よく覚えておいてくれ。

このことは、実のところ、君たちの〈こころ〉の奥底にすでに刻み込まれていることでもあるのだ。

この法則は、科学の法則と同じ生き方の法則だ。

だから、どの時代のどんな国のどんな人でも通用する。


この同じことを、賢者たちは言い方を変えて語ったのだ。」


ソラはごくりと唾をのんで、思わず膝をついて、その言葉を受け取ろうとした。


「自分にしてほしいと思うことは、何でも人にしてあげることだ。

自分にしてほしくないことは人にもしないことだ。」


先ほど村人が語っていた言葉と同じだった。


「思いやりの気持ちを持ち、人に親切にすること。

人のものを盗んだり、人の考えを自分のもののように使わない。

礼儀正しく人に尽くすこと。もちろん形だけでなくまごころを込めて。

物事をよく考えて決断すること。

嘘をつかぬこと。言ったことは実行すること。

家族の中では、親は子を大切にし、子は親に素直になること。

友人、夫婦、信じあい助け合うこと。

より、立派な人間を目指して成長してゆくこと。

いざというときは共同体のために身体を張ってみんなのことを助けること。

より素晴らしい世界を人類に残していこう。」



それらの言葉は天から降ってきて、四人の〈善きこころ〉に刻み込まれた。


失われたメロディーの一つが、今、四人の手に戻った。


「それを奏でていくのは、君たち自身の手にかかっているよ。」

その声は、それだけ伝えると、消えさった。



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