深く刺さった〈トゲ〉
少年少女たちの旅立ちの時がやってきた。
マスターは、一人一人に声をかけて、頭の上に手を置いて、こころを込めて祈った。
すると、一人一人のダイモンが大きく脈打ち力を得るようになった。
ソラは、勇気
ウミは、優しさ
レイは、知恵
ハルは、賢慮
それが、与えられた力であった。
しかし。
彼らは気が付いた。
ダイモンの光が、彼らを照らすと、それまで気が付かなかった〈トゲ〉が深く自分たちのうちに刺さっていることに。
その〈トゲ〉の刺さったところからは、絶えず血が噴き出し、痛みがあったが、
この世界に生きる多くの人がこの〈トゲ〉の存在に気が付かず、気にも留めずであった。
それが、苦しみとして自覚されるようになると、はじめて人は呻き、足掻きをはじめるのだが、結局は気にされなくなると、忘れてしまうことで、〈トゲ〉からは解放されたと思い込んで安心するのであった。
崖の下の今にも千切れそうな蔓にぶら下がりながら、それを忘れて、そこから垂れてくる蜜に夢中になる人のごとくに。
「な・・・なんなんだ、このトゲは?」
ソラは、驚いた。
ハルだけが、もともとそうだったといわんばかりに落ち着いてその〈トゲ〉を愛でるように味わっていた。
「ダイモンの力を解放するっつーことはや、
君たちのうちに深く刺さっていた〈トゲ〉を抜くことでもあるんや。
〈永遠の君〉とひとつになること。
そうして永遠の安心と本当の幸せに至るまでには、この〈トゲ〉が邪魔になっとるんや。
この〈トゲ〉のせいで、人間は〈永遠の君〉を見えなくなり、聞こえなくなっとる。
君たちで、その〈トゲ〉の抜き方を見つける旅に出てほしいんや。」
「〈トゲ〉の抜き方・・・。」
「そう。
それは、しいては、君たちの〈こころ〉の深い水脈にまで至る道にもなるはずや。」
「道・・・素敵な響き。」
とウミ。
レイが尋ねる。
「〈トゲ〉は確かに、苦しくて、どうしようもない・・・。
だけど、決して、ただ無条件に悪いと言うことだけじゃないのね?」
「ええことに気が付いたな。
氷が溶けたら水も多くなるように、深く刺さった〈トゲ〉のあるところにはまた『ええこと』も増えるもんなんや。
まあ、ボチボチやんな。
ボチボチじゃなくてもええけれど。
道はあるよ。
ほな、また。」
四人は、名残を惜しみながら、出発した。