ここにいるよ
「〈永遠の君〉は運命を通して不思議なこともしはる。
そこにはいつも〈永遠の君〉の智恵があふれとる。
〈永遠の君〉は最悪の物事から、絶対的な良い結果を生み出すことを信じなあかんで。」
マスターは〈永遠の君〉の生命の光のなかで口を開いた。
「ハル・・・〈永遠の君〉はあの時も君と共に苦しみ、ともに孤独だったのだ。
ずっとずっとそばにいて、君の苦しみを担っていたんやで。」
そう言って、手を握り、抱擁するマスターの言葉にハルは涙を抑えることが出来なかった。
渇き切ってもはや何ものも自分の心を潤すことが出来ず、ひねくれねじ曲がってしまったと思っていた自分の心に愛が本流のごとく流れ込んできた。
ハルは人目をはばからずに泣いた。
涙があふれ出して、洪水のごとくになり、それは湖のようになり、ついに夜空の星々を映し出すまでに澄み渡っていた。
ソラ、ウミ、レイの三人の仲間も、その姿を見て、深く心動かされ、喜びのあまり彼を抱きしめた。
もはや、誰も醒めた理性で
「〈永遠の君〉とは一体何か、どこにいるのか、どうしたら出会えるのか」などとそんなことを考えることは野暮のように思われた。
しかし、それでももっともっと〈永遠の君〉について知りたい、深く出会いたいと望んだ。
「どうぞ、何でも尋ねてほしい。
〈わたし〉は、あなたとお話がしたい。」
〈永遠の君〉の声は、音でもなく、文字でもなく、純粋な思いとしてストレートにこころに響きわたった。
そして、その声は、あの誰しものこころの奥に響くたったひとつの言葉でもあった。
ウミが尋ねた。
「〈永遠の君〉よ・・・あなたは、男なの?女なの?」
「どちらでもないよ。
ただ、必要によっては、出会う人によってどちらの性格も持っている。
力強くあなたたちを抱きしめ助ける時もある。
もし、あなたたちの母親があなたを虐待しても、わたしは手のひらにあなたの存在を刻み付けている。決してあなたを忘れることなどない。」
ハルはそれを聞いて、深い安心に包まれた。
「わたしは、あなたたちの〈親〉。
すべてのいのちをつくりだし、その髪の毛一本まで数えているほんとうの〈親〉。
性別も、この世界のあらゆるものからも比べることはできない。
だから、世界の人々はいろいろな言葉でわたしの名前を呼ぶ。
それは、歴史や国や民族や文化によって様々ではあるけれども。
しかし、それは何ら問題ではなくて。
どんな呼びかけをされても、その子のところにすぐに行く。
もったいぶってたいそうな呼びかけをする必要はない。
赤ちゃんが、『あー!』と叫べば、親はすぐにその子を抱きかかえるでしょう。
まだ言葉にならない呼びかけでも十分。」
「『あー』でいいのね。
じゃあ、〈永遠の君〉よ、
あなたのことを、『あーちゃん』と呼ばせてもらうわね。」
そんなウミにレイが止めに入る。
「おいおい、いくら何でもそんな測り知れない大いなる存在に、ちゃん付けはないでしょう・・・。」
「いえいえ。
私は、友人や親のように親しく交わりたいと思っている。
だけど、軽々しい気持ちや、いけないことのためにみだりに呼ぶことのないようにしてほしい。」
「もちろん。約束するわ!」
「いい子ね。
ウミ。
そして、ソラ、レイ、ハル。」
わたしは、いつもここにいる。
いつも。そばに。
たとえ、涙があふれて、目の前が何も見えなくなった時でも。
わたしは、いつでもここにいるから。」
〈永遠の君〉は、満足そうに姿を隠していった。
〈永遠の君〉は海よりも大きく、空よりも広く、人間のあらゆる無限の創造をこえたひと(?)だった。
なので、決して消えたわけではなく、見渡す限りこの世界のすべてが〈永遠の君〉の服のすそのようなものなんじゃないかと思われた。
彼らは、気が付くと元の世界に戻ってきたようだった。
夢を見ていたのだろうか。
あれは、現実だったのだろうか。
しかし、四人の目には、喜びに泣きはらした涙の筋がはっきりと残っていた。
それに風になびく一本一本の草や花が輝いて見えたのだ。