世界へ
ずいぶんと、あの国から離れたところまで歩いてきた。
ハルは、四人に出会うのは初めてであったか、なぜか初めてという気がせず、不思議ななつかしさを覚えたのだった。
まるで、昔からずっと一緒に旅をしてきたかのようなそんな気持ちになった。
そして、それはソラ、ウミ、レイにとってもおなじことであった。
道のりは険しかったが、彼らは、互いに励まし合いながら、道を進んだ。
周りには誰もおらず、助けてくれる人もいない。
彼らは、このように歌って、荒野を乗り越えていった。
「山々に向かって、目を上げよう。
私たちの助けは、どこからくる?
私たちの助けは「あの方」からくる。
宇宙のすべてをつくられた「あの方」から。」
マスターの言葉は、難しいことはなく、繰り返される詩のようであり、
少年少女たちも、いつの間にかそれを口ずさむことが出来るようになっていた。
「『あの方』って・・・?」
ハルが聞く。
「〈はじめのこころ〉さ。」
「〈はじめのこころ〉?」
ザッハ・トルテの教えのうちに生まれてこの方どっぷりと浸かっていたハルにとって、マスターの示そうとするものを感じ取ることは難しく、それを思考や定義によって見出そうとしていた。
しかし、マスターにとってはそれでもよかった。
彼らは、野宿をしながら旅をつづけた。
料理は、それぞれ役割を分担して作る。
川があれば魚も取る。
多くのパンもある。
保存できる食べ物もある。
マスターも自ら料理をつくり、丁寧に一人一人の皿によそう。
そこに時に、うまい酒が入った。
数日後に、やっと村が見えたので、五人はそこに泊めてもらうことにした。
いつものように、彼らはその村の住民たちと仲良くなり、マスターの不思議な教えと、不思議な業は住民たちを驚かせた。
ただ、ハルだけはそこに馴染めず、浮いていた。
何もかもが「はじめて」だったのだ。
外の〈世界〉の様子が。
誰も、一人として首輪をつけていない。
親子や兄弟が、家族として暮らしている。
分厚い法の経典を学んでいない。
それぞれが服装も行動もバラバラで、見張る兵士も存在しない。
そこでどう振る舞うべきか、ハルには分からなかった。
一体何が起こっているのか。
何が始まろうとしているのか。
自分はここに居るべき人間なのだろうか・・・。
そんな思いが頭をもたげる。