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道のともしび ~こころのトゲをいやす十のメロディー~  作者: ユウさん
ザワーク・ラウト
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大いなる嘘

ペペロン・チーノは冷静に場を静めて言った。

「もういい。

ハルは〈救済〉に処する。

もうこれ以上何も言うべきことはない。

本人もそれが本望だろう。」


裁判はあっという間に解散させられた。



牢はメイもいたあの豪華な部屋だった。

その中に、ペペロン・チーノがやってきた。

周りには、二人を除いて誰もいない。


「バーカ。」


ハルが顔をあげてみると、そこには今まで公に見せたことのなかったようなチーノの顔があった。


それは、あの厳格な法の執行者、忠実な王の僕のそれではなく、いたずら好きな少年のそれのようにも思えた。


ハルは覚悟を決めていただけに、一体何事かと面食らった。


「お前が、わざわざ言わなくたって、あんなもん、あの男の妄想に決まってんだろ。」


ハルは耳を疑った。

一度は、自分を論破したほどまでの智恵の持ち主の口からそんな事を聴くとは。


「君の言う通りさ。トルテ王は裸だよ。服なんか着ちゃいない。」


「じゃあ、なんで・・・誰も・・・?」


「『空気が読めない』んだな。君は。

そんな君に教えてやろう。

それが、『空気を読む』ということだよ。」


「・・・!?」


「いいか。

人間が生きると言うことはな、嘘だ・・・全て嘘だ!

人間が生きるということはな、みんなが信じると決めた同じ嘘に従って生きていくってことなんだよ。

ある嘘を決めて、それをそこにいる全員が信じたら、それは〈本当〉ってことになるんだよ。」


「そんな・・・とは言いたいが・・・。」


「そう。その嘘は力を持ち始める。

その嘘が本当のこととなって、その上にみんなが生きていくのだ。

そして、その嘘が嘘になったら、人間は生きていけなくなる。

だから、その嘘は生命よりも大切で重たくなってくるものなのだよ。

その嘘のために、人間は行き、死に、殺し合いさえする。


ハル、君はやはり『正しい』


そして・・・だからこそ君は『間違っている』。


この国に限ったことか。

金にせよ、法にせよ、国にせよ、そんなもの、この自然に、宇宙に存在するのかね?

〈ことば〉もそうだよ。

すべては、人間の作った嘘だ。」


「そんなことまで知りながら、なぜあなたは、王に仕えるのですか?」


「生きていくためさ。

というよりも、自分たちの作ったゲームで永遠に勝ち続けるためさ。

それ以外に生きていけるとおもうか?

乗り掛かった舟で、この特権的な地位まで上り詰めたかったのだ。

王の妄想に付き合い、国民をうまく管理するだけで、あとは自由だ。

金は何もせずとも、自動的に湯水のごとく流れ込んでくる。

この国をしばらくは崩壊させないだけのシステムをつくれば、やり放題やれるよ。

つまり、教育者から、青年会まで、ザッハ・トルテシステムの息のかかった組織にして、相互監視させるというやり方だ。


俺たち幹部は、〈世界〉に出て豪遊するもよし、高価な宝石を買い込むもよし。


ははは・・・大爆笑だよ。

宇宙皇帝陛下とやらの衣服の仕入れには全く原材料費がかからないうえに、

適当なパフォーマンスをするだけで、またたんまりと儲けがやってくる。


いやはや、ある意味、奴が一番人間にとって自然な姿じゃないのかね?」


「奴・・・って。

あの宇宙皇帝陛下のことを・・・。


トルテは本気であんなパフォーマンスをしているのか?

それとも、あんたのように、民を騙すためにやっているのか?」


「ひょっとしたら、奴が一番、トルテの国の中で、誰よりも純粋に信じ込んでしまっているんじゃねえかん。


私は、少なくとも、騙すために、そしてその嘘を信じさせるためにやっているという自覚はある。

だが、王は、真剣で純粋そのものだよ。

真剣に、宇宙とコンタクトして、自分は宇宙皇帝であるなどと確信している。

いや、実際にその姿がリアルに見えているに違いない。知らんけど。」


「チーノ・・・あなたは、騙している自覚があったのか・・・。」


「騙すことなくして、人は生き延びることが出来るか?

この世界で、一番滅ぼされてきたのは正直で思いやりのある弱い人間たちに他ならないだろう。

たとえば、お前のような。


生き延びるために、ばれないようにあらゆる策略と計算を使って弱い者や知恵を持たぬ者から奪いつくす。

そんなものは、ごくごく当然のことだ。

知らない人間は、知らないまま騙され、奪われ、善人のまま、世の中を呪って死んでいく。

表に出ないようにしているから、誰も知らないのだ。

成功者は皆が、人を騙すことによって、その地位に昇り詰めている。

思いやり、良心、憐れみの心、そうしたものをすべて打ち捨てて、外面を善人のように振る舞い、内側は蛇となり、修羅となる決意をしたものだけが、成功を手にすることが出来るのだ。


今から、死んでゆくお前に対してだけ話せるオフレコだ。

臣民たちには、わずかたりともバレてはいけないことだが、お前はそれを見破ったばかりでなく、正直にそれを口に出してしまった。

それは、組織全体を揺るがす重大な犯罪だ。

賢い奴は、決して口にせず、上にまで上り詰めるぜ。」


「騙している事にはかわりねえじゃねえか。」


「騙している自覚のある嘘と、本気で信じ込んでいる嘘・・・さてどちらが悪かな。

残念ながら、この世界には、嘘を本気で信じ込んでいる正直者が多く、たいがいの悪は彼らによって行われるものなのだよ。」


チーノは、服の裾から葉巻を取り出して、マッチで火をつけ、ゆっくりと吸い込み、

そして、ふーっと一息吐き出した。





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