周辺の反応
この世界こそが地獄であると感じている者たちや、出世街道から落ちこぼれた秀才たちは、トルテの示すことに新しい希望の光を見出した。
ザッハ・トルテは多くの人々に、頭が相当悪くても理解できるような至極単純な希望と目的を示した。
ザッハ・トルテに「選ばれし特別な人間」と言われた人々は、自分をダメだと思い込んでいたが、どれだけ救われたことだろうか。
さらにその対極に、ゾーラとその使いである劣等人種、劣等民族を配置し、なんと展望の利く形でその思想を受け入れることができただろうか?
バカでもブスでも役立たずでも、ザッハ・トルテに選ばれし宇宙最高民族というだけでもう合格なのだから、こんなにラクで簡単なことはない。
こんな自分でも、偉大なる神聖ザッハ・トルテ王国のために、新しい世界を創造する目的のために働くことが出来るのだ!
しかも、トルテは単純極まりない思想以外のすべての思想を徹底的に弾圧することによって、美しく穢れのない理想的な国家を建設しようとしていた。
当然、一方で周辺の街や国々はこの急激に勢力を拡大する新興勢力を忌み嫌った。
街の人々の話に少し耳を傾けてみよう。
「うーん。なんかよくわかんないんだけれども、ちょっと怪しいというか、怖い感じというか・・・関わりたくないというか。」
「あそこから来る人は、なんかちょっと・・・話が合わないんだよね。
価値観や世界観が違うってゆうか。」
「あと、ちょっと上から目線でこっちの話を聞かずに自分の考えを延々と押しつけてくるところがねえ・・・。」
「純粋なのはわかるんです。
そしてすごく本気で一生懸命やっているのもね。
それにすごく、いい人がおおいですね。
勤勉で親切で、いろいろやってくれるし。
でも・・・結局はあの国に移住してほしいと言うことが目的なのかなあって言うのは見えてきますね。」
「あの首輪、いや首輪と言ったら失礼ですが、それですぐにトルテ人だってわかります・・・。
別にトルテ人だからと言って差別するわけじゃ決してないんですが・・・けれども、あの、やたらと難癖付けてくる感じは・・・関わりたくないっていうか、面倒くさいっていうか。
すぐに、それは差別だ差別だと叫んで被害者ぶるところも厭ですよね。」
「正直言う。
あの国は地上から滅んでほしいね。一刻も早く。
あいつらは自分たちだけが救われ、俺たちはみんな獣以下だと認識している。
とんでもねえよ。」
「何?あんたらもトルテ国シンパか?
だったら言うことは何もない。
今すぐ、どこかに行ってくれ!」
もちろん、トルテの国の人々の中には、落胆し、迷ってしまう者もいた。
しかし、繰り返し、こう教えられた。
「正しいものが起こる時、必然的に闇もそれに全力で反発してくるものだ。
迫害は避けられない。
いや、むしろ、迫害が起これば起こるほどあなた方の方が正しいということが証明されるのだ。」
「彼らの〈認識〉はゾーラによって狂わされている。
すべてがデマであり、まやかしであることは明らかだ。
耳を傾けたが最後洗脳されてしまうので、まともに聞いてはいけない。」
真面目で素直で優秀な人間ほど、彼らの言うことを忠実に守り、
多くの人々をトルテ国に連れてきたのであった。