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道のともしび ~こころのトゲをいやす十のメロディー~  作者: ユウさん
ザワーク・ラウト
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理想の国づくりのために

「我が説く真理を一刻も早く伝えねばならん。」


「さようでございますね。

しかし、トルテ陛下、僭越ながら何事も段階というものがあります。

怪しまれ拒絶されてはその時点で終わりです。

あたかも、本人が強制されずあたかも自分が望んでそうしたかのように誘導せねばなりませぬ。」


「そんなことができるのか。」


「誰もが自分で自分のことを決めている自由な存在だと思い込んでおります。

しかし、人間の心などというものは、本人も知らないところから、いかようにも望むことや決定する事さえもコントロールすることが出来るのでございます。」


「なんとなんと。」


「人々がどのような悩みを抱えているかに寄り添い、まずは気軽に門をくぐってもらえるようにします。

すこしお茶だけでもとか、簡単なアンケートに答えるだけ、と言って。

そして、そこでその人々をこれでもかこれでもかというほど美点をあげつらいます。

その人が特別な存在と思わせることが出来るように。

また、注意点ですが、いきなりザッハ・トルテの理論をまくしたてて語ることのないように。

はじめは、ひたすらその人の悩みに耳を傾けるのがよろしいでしょう。

人には誰しも悩みがあります。

そして、その悩みに対する解決としてのザッハ・トルテ理論を小出しにすればいいというわけです。

さらに、ひたすら無償で物品やサービスを施します。」


「無償で・・・だと?」


「ええ。無償で惜しみなく高額なものやサービスを与えることです。

はじめは損のように思われますが、人には誰でも、『ここまでよくしてもらったのだから、何かお返しをしなければいけない』『言うことを聞いてあげなきゃいけない』という心理が働きます。


そうすることで、繰り返し繰り返し何度も何度も足を運ばせます。

次第に、足を運ぶことに慣れてきたところで次のステップです。


あと、そうですね。

我々は最高学府の出ですから、それを前面に押し出すことも効果的ですね。

あるいは、学者をバックにつけるのも効果的でしょう。」


「そんな生ぬるく妥協したやり方でよいのか・・・?

まあよい。やり方は汝に任せよう。

ただし、手柄はすべて我がものだ。」


「もちろん。」


「続いて、選ばれし人々は純粋で理想に燃えて真面目な人々でございますので、

ザッハ・トルテ様が示されるところの理想郷の素晴らしさ、真実の世界・・・

それに対して、この世界がいかにひどいものか。

その違いを繰り返し繰り返し教え込むというわけでございます。


これは、何週間かにわたり、ゴルゴン・ゾーラの邪気の及ばない隔絶された空間が望ましいでしょう。

そして、情報はできるだけ、穢れのないザッハ・トルテ様の話だけに限られます。


食事もなるべくとらせず、睡眠も少なくして、疲労も極限にまで追い込むことです。

穢れた物質世界から浄化されるにはそうしたところを通らねばなりません。


そうすることによって、熱くもなく冷たくもない生ぬるかった人々の魂は次第に浄化されてまいります。

自分の頭で考えているうちは真理は分かりません。

理性的な判断が付け入る隙がなくなって、ザッハ・トルテ理論はよく頭に入ってくるものです。


周りの人々は、もちろん皆ザッハ・トルテ様に絶対的忠誠を誓う同志のみを集めます。

そして、全員が教えられていることに同意します。

そうすれば、一人ではなかなか同意しがたいものでも、いとも簡単に同意してしまうことが出来るわけです。


いいですか?人間というものは、周りがみんな同じであるとそれが真実であると容易に思い込んでしまうものなのです。


そうした状態で、救いたい人間を全員で何時間にもわたって罵倒したり、怒鳴ったりする。

すると、悪しきカルマが落ちて、参加者は本当の自由を体感できるというわけです。


もしカルマが取れた状態にまで達したならばフィナーレで、全員から盛大な拍手と抱擁です。

ここで涙しない者はおりません。


この〈洗礼〉を通過したものが救われるべき選ばれた栄えある臣民として神聖ザッハ・トルテ国へと迎え入れられます。」


ザッハ・トルテの話す内容は、ペペロン・チーノがまとめ、編集し、プロデュースした。



誰一人見向きもしなかったザッハ・トルテの話を涙を流し共感しながら聞く人が後を絶たなくなった。

二束三文に等しかったザッハ・トルテの絵や彫刻は金貨何十枚、何百枚との値で取引されるようになった。


そして、彼の理想の国づくりに参画したいと熱望する人々は溢れかえった。


「陛下、また、国についてですが・・・」


「うむ。」


「ゾーラの陰謀によってこの計画を転覆されぬために重要な点がございます。


それは、ゾーラの支配する物質世界に属する情報をできる限り遮断すると言うことです。

また、下部組織に関してはいかなる小さなものでさえ、陛下の息のかかったものにするということです。

いかなる、ゾーラ的なつながり、結託すらも認めさせないということです。

でないと、蟻が巨大な堤防を崩壊させるようにわずかなほころびが、国家の崩壊を招きます。」


「なるほど。」


「ですが、人々の自由は保障されなければなりません。

自由は最も大切なものでございます。

そして、国のトップは人々の賛成の意思表示によって公平に選ばれる必要があります。」

「なんだと?」

「もちろん、自由は国の法律の範囲で保障されます。

みんなの幸せを損なわない範囲に限り自由は最大限に尊重されねばなりません。

候補者は基本的にザッハ・トルテ様お一人で、賛成率も百パーセントなのでご安心ください。」


「反トルテ的なもの、すなわちゾーラ的なものに関しては、厳しい罪を適応することが大切です。

高級なスープにわずかでも唾液が混入すれば、すべてがダメになってしまいます。

それはすなわち、みんなの幸せのすべてを損なう重大な犯罪です。

そこは料理人が厨房に入る時細心の注意を込めて消毒をする如くに処分をためらってはなりません。

それがあっての自由でございます。


また、すべての悪は、思いや思考から始まります。

悪しきものは思考という芽のうちから積む必要がありますので、

〈思考管理者〉が常々教官として派遣されねばなりません。」

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