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道のともしび ~こころのトゲをいやす十のメロディー~  作者: ユウさん
〈こころ〉の秘密
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〈こころ〉とことば

「実験をしてみよか。

たとえば・・・ソラ、今からイメージしてみてくれ。」


「はい。」


ソラは目をつぶり、意識を集中させた。


「明太子クリームソース・パスタのことを明確に思い描いてくれ。

その色、香り、味。」


ソラの瞑った目の裏には、ありありと色の着くまでにリアルなパスタが現れた。

思わずよだれが垂れる。


「いいかい。」


「はい。」


そうか、なるほど。

こころのなかに、イメージをはっきり持つ。

強く、強くッッ・・・願う!

それが既に目の前にあるかのように!

それで本当にパスタがやってくるのだという実証をするわけだな・・・。


「では次にこう口に出してほしい。

『やきとり!』」


「やきとり!」



宿屋の主人が答える、

「あいよ!やきとりね!お待ち!」



間もなくして、運ばれてきたもの・・・

それは、なんと、いや、やはり、やきとりであった。



「いただきます。」


皆、運ばれてきたやきとりに舌鼓を打った。


マスターは宿屋自家製の麦酒を飲みながら楽しそうに話した。


「どうだった?

運ばれてきたのはパスタだったかい?」


「やきとりでした。」


「いいかい。わかったやろう。

思いよりも強いものが。


それは、言葉や!」


「な・・・なるほどー。」


一同は驚いて目を丸くした。


「いい言葉が、いい人生をつくり、

悪い言葉は、悪い人生をつくるで。


ええか?

宇宙ができたはじめに何があったか。

〈はじめのこころ〉とは、何やったか。


それが〈ことば〉や。


〈はじめのこころ〉は〈ことば〉と一緒やねん。

〈はじめのこころ〉は〈ことば〉やねん。


〈はじめのこころ〉が〈ことば〉を発したら、ぽっと、無から有が出来てんよ。


この〈ことば〉というのが、生命いのちやねんで。

生命いのちのなかにこの〈ことば〉が生きとんねんで。」


冗談のような雰囲気の中に、まるで宇宙の秘密がぽっと唐突に出現したような気がした。

もしこれが、多くの人を集めての話であればもっと多少は形になったかもしれない。


とにもかくにも、ソラもウミも今、自分たちが生きているのかこれが現実なのか分からなくなるほど、うれしい瞬間の中に居合わせていた。


というのも、この目の前で飲みながら語っているマスターの中に満ち溢れ、彼をを語らしめている何かがその〈ことば〉なのであると分かったのだ。


そして、その〈ことば〉が否応もなく、自分自身の中に植え付けられて、溶岩のようにふつふつと煮え立ち、湧き上がってくるのが感じられたのである。


「人の口から出ることば・・・それは、〈こころ〉のうちからあふれ出すものだ。」

ソラはそう感じた。


「〈ことば〉は、それを語った人に責任を取らせるで。

『辛い』『死にたい』・・・そう口に出したり、文字にしてしまうと、もし、心で思っていることが、『分かってほしい』『助けてほしい』であったとしても、その人はますます、ことばにしたことを実現させてしまうようになる。」


「・・・。」


「宇宙をつくり、人生をつくるのはことばにほかならへん。

だから、もし、人生を変えたいと思ったら・・・初めにすべきことは、口癖を変えることやな。」


「口癖・・・なるほど。

こころや思いのほうは、変えなくてもいいんですか?」


「もちろん、変えられたに越したことはない。

やけど、ソラもウミも、前に坐ってみてどうだった?

思いは自由になったやろうか?

考えることは何でも思い通りになったやろうか?」


二人は首を振る。


「〈こころ〉はたくさんのきっかけに触れて、コロコロと変わっていくもんや。

水面に風が吹くと波がたつのを避けられへんようにな。


やけど、〈ことば〉やったら、意識的に変えていくことはできる。


そうや。

何か素敵なことばを三つ用意しておいて、普段からその三つのことばを口癖にするといい。

そうすれば、君たちの人生は、そのことばのようになっていくやろうから。」


「はいっ!」


「もうひとつ。

〈こころ〉においては、自分と他人の区別がつかへん。

やから、他人を呪ったり、悪口や陰口を言うことは、どういうことか分かるかい?


それを一番聞いているのは、自分自身やで。


次に、

〈こころ〉は、私たちの世界で言うところの善い、悪いという判断をしない。

善い麦やろうが、悪い麦やろうが、雑草やろうが、まかれたものはみんな発芽して成長してゆくねん。

愛にも憎しみにも恐れにもそれは力を与える。



どうかくれぐれも、この〈こころ〉の力を、我欲のための身に使わへんようにな。

他の人の幸せのため、自分の成長のために使ってくださいな。わかる?」


「はい。

でも・・・マスター。

ぼくには・・・どうしても、そうしたくても、完全に善くはなれない、悪い気持ちや不純物がたくさん混じっているような気がするのです・・・。」


「いい気付きや。

それは、ほおっておけ。

全て引き抜くことはないしでけへん。

それなしに、いいものも育つことはないからや。

あかんものを全部排除していったらどうなる?

結局いいものまで全部ポシャるがな。


やから、忍耐や。

受け入れる。


時が来たら、本当にええもんだけが残ってゆく。

あかんもの、苦しみのもとやったものは、きれいさっぱりする。」





旅の途中で、出会った彼らはきっと一期一会の関係かもしれない。

明日から別々の道を歩んでいく。

でも決して、それは別れではなく、離れていても一つのきずなで結ばれている。

そう感じた。

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