表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道のともしび ~こころのトゲをいやす十のメロディー~  作者: ユウさん
〈こころ〉の秘密
44/225

〈こころ〉のつながり

「マスター、それにソラ。

この国に来てくれて、そして出会ってくれてありがとう!

心から嬉しく思います。」

ウミがそう語ってくれるだけで、ソラは何とも言えない暖かさと喜びを感じた。


この瞬間だけは、何ものにも代えられない、人生に刻まれるべき黄金のときなのだ、と。


ウミが、ソラの手を握り、目を見つめあいさつと礼を心を込めてしてくれる。


その他すべてのことは忘れ、ただこの幸せのみが、人生の真実なのだとはっきりと感じ取った。


「いったい、どれほど多くの人々が同じようにこの姫に〈特別扱い〉されたのだろう。」

そんな気持ちが一瞬よぎったものの、今この瞬間だけはウミがソラという一人の人間のことだけを〈特別に〉―「何万人もいる人々のうちのひとり」としてではなく、「世界にただ一人のこのソラという人」としてまっすぐに、友として接してくれているのだ。


ソラは姫に自分の名前をしっかりと覚えてもらったことで、何か自分が特別な存在になったように思えた。


実は、ソラはマスターも、人間というものに同じように接してくれていることを知っていた。


ウミは姫と言うこともあり、誰もが知り、憧れる有名なアイドル的な存在であったが、

一方、マスターは表舞台に出ることを避け、顔も知られたくないようだった。


しかし、有名であることや身分は、ソラの出会う喜びとはさして関係なかった。


「こんな素晴らしい人たちのそばにいて、話ができるなんて。

ぼくは、なんて幸せ者だろう。

誰と較べるでもないが、きっと、出会うべくして出会ってくれたに違いない。

ぼくのために。

ただ、この空間に居るだけで、ぼくの人生は、生命は、変容しつつある。」

そう、自然に感じることが出来たのだ。


「ああ、ウミ姫。

この人の敵になれる人がいようか?

この人の前で、いかなる恨みや不幸が存続し得ようか。」


「マスター、その話の続きを聞かせて。」

ウミ姫とマスターは、まるでずっと前からの友人同士のように語り始めた。


「ウミはね、思うのです。

なぜ、この世界にはあまりにもたくさんの性格の人がいるのかしら、と。」


「身体にせよ、目や舌や手足が分かれているように、それぞれこの世界にとって、その人にしかできない大切な役割があるんやで。」


「その人にしかできない・・・役割。」


「せや。

手は足にはなれへんし、目は目にしかなれへん。

そして、それぞれ、自分らしく、自分の役割を精いっぱい果たしながら、一つの身体としてバランスを保って調和しとるんやで。

それも、互いに交わり、関係を持ちながら・・・。

機械の部品のようにではなく、だれか一人の小さな働きでさえも、深いところで、全体の生命に響いとるんや。」


「互いに交わり、関係を持ちながら・・・」


「ソラ、それにウミ・・・それにみんなや。

全ての人が、この世でひとつだけのかけがえのない存在なんやで。


私たちが、今、こうしてここで出会い話ができる確率は、何億、何兆、いやそれ以上分の一。

そして、あなた一人が存在するためには、両親二人をさかのぼって、そのまた親が四人、その上に八人・・・さかのぼっていくと、星の数ほどの多さになる。

もし、その星の数ほどの人の一人でも何かの拍子に欠けとったら・・・あなたは存在していなかったことになるんや。」


「本当だ・・・」


「人の人生なんて、一体何なんだろうと、よく思ってむなしくなることがありました。

ただ、気が付いたら生まれて、よくわからないままこの世界の小さな一部になるか、あるいは何ものにもなれないまま、ほとんど何ら生きた証を残すこともなく、忘れ去られて、誰からも気に留められることもなく、水滴のように消えてゆくだけなのだと・・・。

私たち人間の一生など、長いように見えて、砂時計が落ちてゆくようにあっという間。

生まれたかと思えば、日々を漫然と過ごして、あっけなく死んでしまうだけ。

宇宙からすれば、まばたきするほどでもない小さな小さな一点、いやそれ以下なのだと。」


「〈こころ〉は、時間を超えとる。

その一瞬のうちに永遠が含まれ、

その一瞬のうちにすべての時が結晶しとるんや。


そして、その一瞬はすべての過去とつながり、すべての未来、そして永遠へと何の狂いなくつながっとって、けっして消えることはない・・・。」


ソラもウミも、それが「ほんとうのこと」だとわかると、言葉では言い表せないほどの感動をかみしめていた。


その時だった。

ウミの胸からあふれ出る光があった。


その光は、花びらのようなものにつつまれていた生き物だった。


「おお!ウミ、あなたもダイモンの持ち主だったか!」


「は・・・はわわーーー。

なんじゃーーー。

なんじゃ、この子は?


え?でも、すっごくかわいい!


そうだ、さっそく名前を付けよう。


『マリ』そうだ、君は、今日から『マリ』ね!」


「ウミ、私たちについてこーへんか?」

マスターは言った。


「うん!私も、一緒に冒険の旅に出たいな!

だって、ソラにもダイモンがいるってことは・・・そういうことでしょう。


パパ・・・王様に許可をもらえるか聞いてみるわね。」



父王は、ウミ姫の旅立ちを実にあっさり、二つ返事でオーケーを出した。


「ちょうど、そろそろこの子を旅に出し、世界を見せたかったのだ。

実に良いところに来てくださった。

マスターという方。

私のお見掛けしたところ、あなたにはそう・・・見た目は、身分の高いものではないが、そんな人間的な枠組みに一切とらわれない・・・はめることが出来ない。

定義することが出来ない・・・

普通の人間とは違う、なにか、大空や大海原の広さ、いやそれ以上の何かをあわせもった・・・そんな大きな徳のある方のように見受けられます。

どうぞ、娘をよろしくお願いいたします。」


王は、深々と頭を下げた。


「ウミ、素晴らしい出会いと、そして、何よりも逆境と困難を祈ってるよ。

それは、あなたの魂を鍛え、よりあなたを謙遜たらしめ、より上に生命を求めるために必要なことだからだ。」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ