しっている
話は、マスター・エッグタルトと彼についてきた少年ソラの旅に戻る。
彼らは、いくつもの山々と川、そして荒野を抜けていった。
あの小さなメープル村を出発したときには小さなせせらぎだった小川は、今では泳いでも渡れないほどの幅になっていた。
彼らは、ティラミスと呼ばれる国までやってきた。
「すごーい!
船がひっきりなしに行き来している。
それに、橋と言う橋には装飾が施され、彫刻が飾られている。
建物と言う建物も、すべてが芸術作品としてつくられていながら、実用性も兼ね備えていますね。
そして、都市のつくりも、整然としていて見事な幾何学模様になっていますね。」
ソラは興奮気味に語った。
向こうには大きなお城が見える。
「この国にも〈ダイモン〉をもった子がおるな。」
マスターは言った。
「ええっ!そうなんですか!
やった!
どんな人だろう!?早く会ってみたいなあ。ワクワク。」
「この国の街並みだけでなく、人々も素晴らしいな!」
マスターは、とても嬉しそうに目を輝かせて言った。
「まるで小さな太陽がこの国を照らしとるみたいやな。
そして、ここに住む一人一人が、小さな星々のように輝いとる。」
「そうですね!
ぼくの住んでいた村も素敵なところでしたけれど、この大きな街もとても素晴らしい!」
「この街の星々はみな太陽を〈しって〉はるな。
そして、太陽はまた星々のことを〈しって〉おる。」
「しっている?」
「単に、表面的に情報を知っていると言うことだけやない。
両者は家族のように深く安心できる結びつきをもって、お互いのことをよくわかっとると言うことや。
つまり、以心伝心、ツーカーの仲やな。
だから、怒鳴ったり、脅したり、押し付ける必要はない。
命令することは、必要最低限以外はせえへん。
トップは人々を励まし、自分自身も率先してその模範を示していくんや。」
「そこまで高貴な生き方があるのですね。
そこまで謙虚で柔和な姿勢があるのですね・・・。」
ソラの心は波が打ち寄せるように震えた。
「人の〈こころ〉はここまで偉大になれるものや。」
マスターは城下の坂道をゆっくり歩き続けながら話を続けた。