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道のともしび ~こころのトゲをいやす十のメロディー~  作者: ユウさん
空を見上げる少女
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絶海の孤島

その島は絶海の孤島であった。


つまり、周りに島々は全く見えず、その島にいままで誰か人が来たという歴史もなかった。


島の人びとは小さな船をつくり、一昼夜島の周りを漕ぎだし、出来る限り遠くに船出してみるが、それでも島らしい島は見当たらない。


つまり、この島に住む人々は、この島以外に〈世界〉を知らなかったのだ。


ところが、その島の住民の間に、議論が起こった。

「昔からその島以外に陸地があるのだろうか?」

「またもし陸地があるのであれば、そこには自分たちと同じような人間たちがいるのだろうか?」

と。


それについての議論が長い間続いた。

しかし、結局決着はない。


島の学者たちは言った。


「我々の島以外に陸地があるわけなどない。

そして、それゆえ人間は他にはいない。

なぜなら、船を出して探検してみた。そして、島の周囲をくまなくめぐってみた。

どこまでいっても水は雲に続いていた。

陸などどこに行っても見たらなかった。

この目で見て実際に確認できなかったのだから、ない。

ないに決まっておるわい。」


「そうだそうだ。ないに決まってる!」

島の人々は同意した。

「俺たちは初めからそう思ってた。」



ところが、やや考えの深いものが反対して言った。


「いやいや、ちょっと待ってほしい。

たしかに、船での探検のことも考えに入れなければならんが、このどこまでも続く大海原の果てしない広がりを、端から端まで見たというのかね?

もちろん、そんなことはとてもではないが不可能だ。

ひょっとしたら、ないとは言い切れないかもしれんよ。」


「そうだそうだ。あるかもしれないよ。」

島の人々は同意した。

「俺たちは初めからそう思ってた。」


ある霊能者も加えて言った。

「真実はこうじゃ!

占って透視してみたんじゃ。海の向こうは巨大な滝になっておる。

世界は盆のような形をしており、その盆を支えているのは、三匹の象じゃ。

そしてその象は巨大な亀の背中に乗っておる。

その亀はそれまた巨大なミルクの海に泳いでおって・・・。」


「なるほど。そうだそうだ。きっとそうだ!」

「俺たちは初めからそんな気がしてたんだ。」


それに対して、自分の目で実際に見たものしか信じない人たちが反論する。

「いやいや、そんなものはあなたの想像じゃないか。

それほど知ることが難しい問題を、私たちがあれこれ頭を悩まして考えて一体何になる?ねえ。

そんな必要があると思うか?

そんなことは、とてもではないが人間には分かることではないよ。

つまりだ。

外に陸地や人があるという証拠もなければ、またないという証拠もない。

それは、結局は私たちが関わるべき問題ではないから、これに関して議論することは一切の無駄だよ。」


「そうだそうだ。

はじめっからそんなこと気が付いとけよって話。」

「俺たちはずっと初めから同じことを思ってたんだ。」



「いや。

そういうものは、必ずなければいけないわ。そう、必ずね。」


口を開いたのは一人の少女であった。

「またレイの突拍子もない空想の話か・・・。」


レイはその島に住む「発明家」だった。


気候を予測する技術や、小屋一杯分に貯まった情報を手のひらにすっぽり収まる小さな箱の中に入れる技術、水の力を使って機械をずっと動かすこと、少しだけ浮いて摩擦をなくすシールなど。


これらを十代ですべて作り上げてしまったのだ。


おかげで、その島には素朴だが、独自の文明の体系が発展することとなった。

しかし、島の人々は、ひとたびはレイを持ち上げるが、まだ自分たちより年下の子どもであるというだけで、周りに流され、言うことに同意したり、反発したりするのが常であった。


「私たちは確かに、実際に陸や人間を見たことはない。

でも、必ずあるはず。

だって、時たまこの島の海岸に不思議な植物が打ち上げられるでしょう。

それは、わかめやコンブなど海で育っているものとは違うわ。

陸地に生い茂る木のえだか葉っぱにしか思えない。

そんな植物が、この島にある?


絶対この珍しい植物は、どっかの陸地から来たものよ。」


「ほう。たしかに。」


「もうひとつ。暴風があったあとに、不思議な木のかけらが打ち上げられていることがあるわね。


私たちが一度も見たことのない彫り物がしてあるし、なにか記号のようなものもある。」


「偶然そういう風に見えただけでしょう。」


「いや、これは、風や波だけでできるようなものではない。

私たちと同じような、知恵のある人たちが作ったに違いないわ。


だから、陸地は他にもあるし、そこにも人は住んでいるはず。」


「おおーーなるほどなあ。」

島にいる人たちは、レイの説に感服した。


「そうだそうだ。きっとあるよ。」

「俺たち初めからそう思ってたんだ!」


しかし、その大問題が解決するところまでは至らなかった。


「そうはいうけれど、証拠がねえんだよ、証拠が。」

「実際この目で見て確認できんことには何とも言えんからのう。」



一人取り残されたレイはつぶやいた。

「・・・それでも、島はある。人もいる。」


レイはひとりで波打ち際に立って、今にも吸い込まれてゆきそうな夜空を仰いだ。


「ねえ。

どこかの誰かさん。

もしいたら聞いてくれ。


この夜空を見ている人は、この島の外にもいますか。


もし、いたら、答えておくれ。


私は、会いたいんだ。あなたに。

そして、いちど、この島の外の〈世界〉に出てみたい。」


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