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道のともしび ~こころのトゲをいやす十のメロディー~  作者: ユウさん
空を見上げる少女
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〈こころ〉って何だろう

私、ウミは、そこまで勉強のできた方ではなかったよ。

でも、いつもさまざまなことをひとりで考えていたの。


だけどね、ウミがもしそんな考えを誰かに話そうものなら、

「ちょっと、あなたの考えていることは、僕たちにはわからないね。」

「そんなこと考えて何か意味があるの?」

と不思議そうな顔をして、突っぱねられるもの。


なので、こんなことは、人には話すべきものじゃない。

そう思って、ずっとそれは自分の〈こころ〉の中にしまって、飴玉をなめるようにころころと考え続けるの。


その時だけ、ウミはウミが「元いた場所」に戻ってきたような気がする。



ああ、〈こころ〉・・・〈こころ〉って果たして何かしら。


〈こころ〉でどこにあるの?


ここらへん・・・かなあ。


胸に手を当てる。


いや、ひょっとしたら、こっちかなあ。


頭に手を当てる。



「ねえねえ、質問なんだけれど。」


近くにいた学者兼家庭教師が答えた。

「またまたウミ様、困った質問でなければなんでもどうぞ。」


「〈こころ〉ってどこにあるか知っている?」


「それは、この頭の中の脳にございます。」

即答だった。


「我々すべての人間の頭の中には、脳というものがございまして、それは三層の構造になっております。すなわち、考える部分、感情を生み出す部分、生命機能の維持をつかさどる部分と別れております。

そこで、心と我々が呼んでおりますのは、この感情を生み出す部分でございます。

この感情を生み出す部分の中には、アーモンドほどの大きさの小さな部分があることが分かっておりまして、これが何かを認知した際に、好きか嫌いかを瞬時に判断してしまいます。

もし、この頭の中の〈アーモンド体〉が好きだと判断したら、そこから、うれしい感情が生まれ、前向きの考え方も生まれ、体調までもが良くなります。

もし、〈アーモンド体〉が嫌だと判断したら、そこから、暗い感情が生まれ、もうやりたくないという考えが出来、体調も悪くなります。

つまり、心と申しますのは、脳みその機能と働きなわけであります。」


「へえーーー物知りなんだね。先生は。すごいすごい。」


「この性質をうまく使いこなせば、私たちはもっと幸せになることもできる、上手くやることもできるのです。

もっとも、ウミさまは無意識のうちにそれをうまく活用していらっしゃる。

例えば、良い言葉をかけてあげるとか、素敵なイメージを描くことであるとかいったことや、前を向いて微笑むことは、〈アーモンド体〉を好きモードにするのですよ。」


「じゃあさ、じゃあさ、〈こころ〉は〈わたしの内側〉にあるの?

それとも〈わたしの外側〉にあるの?」


「もちろん内側に決まっているでしょう!

心を生み出している脳はウミさまのこの中にございます。」

そういって、先生は人差し指でウミの頭をつついた。


「ちがう。

それだったら、それは〈わたしの外〉。」


「はあ?」


「頭のなかにある〈もの〉は、〈わたし〉じゃない。

〈わたしのもの〉ではあるかもしれないけれども、〈わたし〉じゃない。」


「いえいえ、ウミさま、頭の中にある〈もの〉が〈あなた〉をつくりあげているのですよ。」


「じゃあ、なんで、ウミはウミなの?

なんで、ウミはウミであって、ほかの誰かでないの?

なんで、わたしは、このわたしなの?」


「簡単ですよ。そんなもの。

それはですね。

頭の中の、ちょっと前あたりのところにですね、ある器官がありまして、それが、いつも自分と他人は違うものだと認識させているわけでございます。

ですから、ちょっと特殊な状態になればそのフィルターははずれて、自分と他人との境目はなくなるのですよ。」


「特殊な状態って?」


「そ・・・そうですねえ。

深い瞑想の時であるとか、血がなくなった時とか・・・あとは・・・。」


「あとは?あとは?」


「その・・・大好きな人がいたとして、その人とものすごーく仲が良い関係になって、一つになったとき、とかですかね。」


「ふーん。

でも、たくさんの人がそれぞれ自分の頭をもっているわけじゃない。

もし、頭の中にあるものが自分をつくっているのだとしたら、

じゃあなんで、〈わたし〉は〈みんな〉じゃないの?

なんで、〈わたし〉は〈このわたし〉なの?」


「だから、それは、場所が単に違うだけで・・・」


「〈わたし〉とは、〈わたしの身体〉なの?」


「身体だけではありません。〈こころ〉もです。」


「〈こころ〉も、〈頭の中のモノ〉って言ったよね?

じゃあ、全部モノってこと?

だったら、人間はみんな意志のないからくり人形ってことにならない?

自分で自分のことを決める〈こころ〉の〈こころ〉、その根っこはどこにあるの?

〈わたし〉の〈わたし〉はどこにあるの?」


「ううむ・・・よくわかりませんなあ。

また不思議なことをおっしゃるものだ。姫様は・・・。」


「じぶんで話しててわけわかんなくなってきちゃった。」



あー。

不思議だなあ、〈こころ〉って。


頭の中を調べて分かることはすごい。

色々なことは分かる。

だけれども、〈こころ〉それ自体の正体は全く分からない。


〈こころ〉って不思議だ。


わたしに一番近い身近なものなのに、

わたしから一番遠くてわからないもの。


それが、自分のこころ。


内にもないし、外にもない。

かといって、その間にもない。

ないわけでもなく、あるわけでもない。


この〈こころ〉の秘密をもっともっと知りたいなあ。



それは、そう、まるでこの満点に広がる星空のように。



ウミはひとりで塔に立って、今にも吸い込まれてゆきそうな夜空を仰ぎます。


「ねえ。

どこかの誰かさん。

もしいたら聞いて。


この夜空を見ている人は、いますか。


もし、いたら、答えて。


わたしは、会いたいの。あなたに。

そして、いちど、この外の〈世界〉に出てみたい。」


そのとき、

ウミの胸の中で、小さな光が生きているのがわかった。



そして、ある旅人のうわさがウミの耳に届いたの。




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