優しさ
ウミ姫は、聡明な王族の中でひとりだけ、のんびりしていた。
そして、道にすぐに迷ってしまう。
いや、道どころか王宮の中でも「あれ?ここどこだっけ?」となってしまう。
なので、一人で散歩が出来ないのだが、それにもかかわらず、ついフラフラっと一人で出かけてしまう。
王宮の表にある河や、その裏にある山や草原の美しさに心奪われつい出ていったしまったきり戻ってこなくなる。
ものを食べるのも遅い。よくこぼす。
ボケーっと、窓の外を見ながら空想に耽ってニコニコしている。
精神年齢的には、まるで小さな子どものようでもあった。
小さな子どもたちと一緒に遊んでいても何ら違和感がない。
しかし、それで困るというようなことは案外なかった。
普通なら、周りはイライラして、
「いい加減にしなさい!ウミ!
そんなのだったらろくな王妃にはなれんぞ!」
となりそうなものなのだが、ことウミ姫に関しては、「助けてあげたい」「守ってあげたい」人が次から次へとわんさと出てくるのだ。
そして、そのたびにウミ姫は大喜びして、手を握って言う。
「ありがとう。本当に助かったわ。お名前を教えて。そうなの。覚えておくわ。素敵な人ね。」
と伝えるものだから、助けた人は、逆に自分が助けられた気分になって、何年もそのことを想いだし、名誉に思うのであった。
ウミは、他人の長所を見つける天才でもあった。
他の誰もが、短所や困ったこととみなすようなこと、そしてその本人でも「直さなければいけない」「隠さなければいけない」とコンプレックスに感じているところをこそ、
「そこがあなたのいいところよ」「そのまんまで一番素敵だよ」などと言う。
そしたら、言われた人は涙を流して喜んで、自信をもって毎日の生活を送り始める。
「ウミ姫から言われたことを、壁に貼っていつも眺めているんです。」
と言う人までいる。
ウミ姫の優しさは、生きとし生けるものすべてに対して等しく、それこそ太陽のように、濃淡なく向けられていた。
ウミ姫に出会った人は誰でもこう言った。
「自分こそが一番、ウミ姫に気にかけてもらった。」
「いやいや、自分だってそうだ。」
そして、次にはこうだ。
「よかったなあ!」
「お前こそ!」
そして、他の誰かを、ウミ姫のところに連れてくる。
ウミ姫の周りにいた人たちは、彼女に出会うのをいつも楽しみにしていた。
そして、どんな意地悪な人も、自然と優しい気持ちになって、人に親切にしだすのである。
この国に、警察はあったが軍隊というものは存在しなかった。
この国に攻め入ろうとする国はない。
それをしようとした国もあったが、王や姫とその国民が自分に対して実によくしてくれるのを見ると、
「こんなことはもうやめよう。恥ずかしい。うちも真似しよう。」とすっかり矛先をおさめてしまった。
誰もがきっちりとルールを守り、犯罪もほとんどおこらないものだから、
警察も警察で、ウミ姫の迷子を助けたり、ウミ姫の忘れ物を届けるくらいしか仕事がない。