ウミ
ウミ姫は、ティラミス王国の王女。
城下町にはひっきりなしに人が行きかっていた。
国にも城にも壁はなく、街には赤茶けた屋根が整然と幾何学的に並ぶ。
至る所には彫刻やおしゃれな建築物。
橋には、いくつもの像が立ち並ぶ。
中心の円い広場ではあちこちで、大道芸人や出店が立ち並ぶ。
城の塔から眺める一面のこの街の景色はまるで絵に描いたような美しさだった。
望遠鏡をのぞいてみると、はるか遠くには、あの天を突くような高さの塔が、絵画を二分する黒い糸のように突っ立っている。
そしてその塔の周りにはまるで触手のような〈ブラック・サンダー〉が轟いている。
ウミ姫は、王宮の高台から、街並みを見下ろしていた。。
「毎日、この青い空の下に住む一人一人が幸せでありますように。
もし、誰かに苦しみや辛いこと、寂しいことや悔しいことがあれば、自分も一緒にそばに行ってその重荷を担って泣いてあげよう。」
そう祈りながら。
お城や街をボケーっと散歩していると、ウミの「お友達」が寄ってくる。
大人も子供もおねーさんもおじいさんおばあさんもウミのお友達になった。
犬も猫も蝶や花も鳥や風や光もそうだった。
ウミがすることはと言えば、ニコニコしながら、丁寧に頷いて一人一人の話をじっくり聞くだけ。
「それは、こうすればいいんじゃないですか」などと、アドバイスを与えることは必要に応ずればするが、どちらかというとあまりない。
「そうですか。それはよかったですねえ。」
「なんと、それはつらいですねえ。」
などと、同じ目線に座り、あいづちを打つ。
ウミの周りだけは、まったく違うおだやかでゆったりとした時間が流れていった。
父であるティラミス国王は常々こう語った。
「天が我々を立てたのは、民のためだ。
王は、なによりも、第一に人びとの一番の召使いであるべきだ。
もっとも、謙虚で謙遜でなければならない。
それを忘れ、感謝と奉仕の心を失ってしまった王は、天によって滅ぼされる。」
「人びとの才能をどんどん伸ばしていこう。
そして、同時に誰も取りこぼしや排除されない国を作っていかねばならない。」
「人々の意見をしっかりと聞いて、それが満足に反映できるようにしよう。」
国王とその家族は、その模範を示すべく、率先して、街のゴミ拾いやトイレの掃除に取り組んだ。
また比較的貧しい人のところに出向いていき王宮に呼び寄せパーティを開くなどとんだサプライズを行った。
生活は極めて質素であったが、国民からの要望で、「オシャレをしていただきたい」ということで、
一点だけ宝石をつけることにした。
そのような王室であったので、ティラミス国民も、王を愛し、「この王と国全体とすべての人の幸せのために」と和気あいあいと国を作っていった。
才能を伸ばして成功した人々は、喜んでその多くを病気で困っている人のために分け与え、分かち合った。
多くの人々が「ティラミス国に生まれてよかった」と感じていた。