許しの秘法
「素晴らしい!
いまここで、ダイヤモンド、ペペロン・チーノより直々に許しの秘法を授けましょう!
この契約書にサインして。二百か月の分割奉納でいいね。
では、儀式行きますよ。
さあ、ハル、ここに土下座して。」
ペペロン・チーノは、オレの頭を靴で踏みつけて、何やら呪文を唱えながら、「聖水」を振りかけた。
「ここに書かれた文言を読んで。はい。」
「私は虫けら。民の恥。とても人とは言えない。
私は人間のクズ。罪人。生きている価値はない。
しかし、偉大なるザッハ・トルテの光によって、永遠の生命と生きる価値を取り戻します。
私はザッハ・トルテ陛下のことを心から信じ疑いはしないことを新たに誓います。」
続いて、土下寝!
五体投地。
チーノは、靴で頭をぐりぐりと踏みにじる。
「今、おまえの悪しきカルマが落ちているからね」
続いて、仰向けに!
そう!犬が自分よりも強い犬に出会ったとき、腹を向けてしっぽを振るように。
股を開いて!手は前でしぼめて!そう!
「偉大なる宇宙皇帝陛下ザッハ・トルテよ。
この虫けらをあなたの慈悲によりお許しください。ブツブツ」
チーノは、横腹を蹴りながら、そんな呪文を唱えた。
「最後だ。総仕上げに、この靴の裏を舐めるのです。
これは聖なる靴で、裏を舐めると、すべてのカルマが浄化されますよ。」
「う・・・」
「ほら、どうしました?
これがないと、儀式は終わりませんよ?
もっとも、もう契約書にサインはしてもらったので、引き落としは成立しますけれどね。
勿体ないでしょう。」
チーノは、仰向けになったオレの顔の前に靴を差し出した。
「頑張れ!頑張れ!
あと一歩の勇気だよ!」
声援が飛ぶ。
「前向きに考えよう!前向きに!
ポジティブシンキング!
死ぬ気になれば何でもできる!
死ぬ気になればできないことなんて何一つないよ!」
「ほら、みんなそう言ってるぜ?」
それでも、オレにはどうしても無理だった。
戸惑っていると、チーノはそのまま顔を踏みつけた。
星が見え、鼻がつんとし、苦い味が広がる。
鼻血が出る。
「まあ、代わりと言うことで・・・。
みなさん!
ハルはいま許しの秘法を受けて、ここにみごと更生し真人間に戻りました!
盛大な拍手を!」
また、拍手。拍手。
いい加減にしてほしい。
「そこでだ。
先ほどの誓いの証拠として、皆の前でやって頂きたいことがあるのだが。」
鼻血と靴の底で、赤黒く汚れた顔を上げて気力なく頷く。
「あの、メイとか言う少女を、君自身の手で〈救済〉してほしい。」
「・・・救済。助けるってことですか?」
「そうそう。助けてあげて欲しいのだ。」
「助けてあげることができるんですね!?」
疲れ果てていたオレの目に光が戻ってくるのが感じられる。
ああ、そうだ。
メイを助けてあげること。
ザッハ・トルテ王国の一員として、仲間に入れてあげること。
それこそがもともと本当にオレが望んでいたことなのだ!
「そうか!よかった!
オレはどうなっても構いませんから、どうか、メイのことだけは助けてあげてください!
助けたいんです!」
「素晴らしい心がけだ!
許しの秘法を受けて、新しい生命に目覚めたな!
では、さっそくだが、あの暗黒に堕ちた少女を、君自身の手で〈光の宇宙〉に送ってあげて欲しいのだ。」
「はい・・・?」
「言ってることが分からないのか?
またじっくり説明しよう。
さて、閉廷だ。閉廷。」