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ヒカリ

その日、マスターは、村のある宿屋に泊まった。

一階にあるバーやオープンテラスには人だかりができて盛り上がっていた。

真ん中にはマスターがいて、多くの人が相談を持ち掛けたり、その話に聞き耳を立てていた。

いい話だからと、紙にを用意してペンを走らせる人までいた。

ソラはいつも後ろで、マスターの話に耳をそばだてながら、食事や飲みものを運んだり、荷物を持ったりと忙しく手伝いをした。


マスターは、深い静けさをたたえているだけではなかった。

酒豪で、いつも笑っていた。

人の心を打つような話の合間に絶妙のタイミングで、笑い話、ユーモアが飛び交い、そこにいる人たちも腹を抱えて大笑い。

飲み食いをし、大笑いをし、熱く語り合っているうちに、そこには「場」ができる。

人と人との暖かい絆、喜び、楽しみ、人を大切に思う心、

人間にはもっと偉大な可能性が満ち溢れていること

いつの間にか忘れていたことだった。


マスターは、村人たちがもってくるあらゆる悩みや苦しみに対して、瞬時に解答する。

次々と相次ぐ相談に対し、深く考えるそぶりを一切見せず、質問者の相談が終わるか終わらないかのうちに、その苦悩の根っこを、あたかも雑草でもひょいと抜き捨ててしまうかのように取り去ってしまう手助けをするのだ。

そしてその答えはいつも、問題の核心をついており、その人の心を軽くし、自由にさせた。

それは、あまりにも常識にとらわれることなく自由で、予想もつかない角度から飛んでくる上、明るく楽しい答えだったのだ。


「いったいどこからこんな答えや発想が出てくるんだろう。」

驚いたのは、ソラだけではなく、村の人たち誰しもだった。


それだけではなかった。

ソラは現場で信じられないような光景を目の前で見た。


宿の外に寝たきりのおじいちゃんが連れてこられたということを耳打ちされた。

マスターは、「ちょっと厠に行ってくるわ。ソラあんたも来るか。」と呼びかけた。


ソラは一緒に外についていった。


マスターは、おじいちゃんの顔を見つめ、腰を下ろし手を握り、何のもったいぶった造作もなく手を握る。

そして、少し目をつぶる。

目を開けて、

「はい、もうだいじょうぶだよ。」


すると、その場でおじいさんは普通に自分の足で立ち上がり、

喜んで、スキップをしながら帰っていった。

「秘密だからね。あんまり、人に言いふらさないでね。」

とマスターは念を押す。


ソラはその様子を、口をぽかんと開けて見つめていた。


「あのね、こういうことはあんまり人には言わんといてね。」

マスターは口に手を当てながら、ソラにこっそりと口止めをした。

「は・・・はいっ!」

理由は聞けなかった。

しかし、ソラにはマスターという男が、自分が目立ちたいとか英雄になろうとか特別視されるということをどこか避けているように思われた。






ソラは興奮でなかなか寝付けずにベッドの上で天井を見上げながらあれこれと想いを巡らせていた。

ついにたかぶる気持ちを抑えきれずに、彼は満点の星空の下に飛び出した。

墓地の街路樹を通り抜けて、坂をのぼり、丘の上まで。


ソラは、ダイモンの「ヒカリ」に心の中で話しかけた。


「運命だ!

なんと喜ばしい運命だろう。

何か、新しいことがぼくの人生にはじまりそうだ!」


ヒカリはこう返したようだった。

「ワクワクしているのかい?

いいね。とてもいいことだよ。

大切なことは、〈きざし〉を読み取り、それにしたがうことさ。」


ヒカリは、ソラにとってちょうどいい話し相手であり、良き味方となった。


ヒカリの声は、耳に聞こえる音声としてではなかった。

いつもそれは、ひとつの「響き」として、ソラを内側から揺さぶった。



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