裁判
裁判の席では、数千、数万の目と言う目が、軽蔑と憎しみのまなざしを向ける。
ちなみに、裁判員は国の中に住む者であればだれでも参加できる公開性のものである。
人を裁くときは、「みんな」が決める。
それが公平というものだ。
罪状は、「婦女暴行」「暴力」「法の個人的な解釈」「リング取り外し」「許可なく外出したこと」「罪人をかくまったこと」「秩序を転覆させようと試みたこと」「親を敬わなかったこと」「トルテ王への不敬」「ザッハ・トルテ臣民の多くの人々の純粋無垢な忠誠心を傷つけた」・・・など、ありとあらゆるものが課せられた。
「この者はシルバーのリングでありながら、修行が足りないばかりに暗黒の支配下にはいってしまった!」と嘆き悲しむ人々のすすり泣きと嘆息が聞こえる。
「最悪・・・。」
「クソだなこいつは。」
「お前は、私たちを傷つけた!」
憐憫とあきれ返る様子とため息と怒りが、四方八方から向けられる。
その時のオレは一体何が何だか分からなかった。
しかし、とてつもない悪いことをしてそうなっているのだという想いで、罪悪感にとらわれた。
「・・・なんだ・・・オレは・・・悪いことをしたのか?
誰かを傷つけたのか?
この国のことを思って生きていたつもりなのに・・・。」
誰が作ったのかが分からないドキュメンタリー映像が流される。
「ハルの人生」。
生まれた時から今までだけではない。
一面年前、五千年前、千年前の前の人生というやつまで、
ハルという存在がどれだけ繰り返し繰り返し悪事を犯してきたかということが、つぶさに流れてきた。
それぞれの人生の最後で、ハルが回心して、ザッハ・トルテ宇宙皇帝に救ってもらい、涙を流しながら「真人間」として生きることを誓ってきたかという「感動」の物語が、二時間、三時間にもわたって流される。
「誰だよ・・・こいつは。名前はオレで、顔もまったくオレだけれども・・・なんだよ、こいつは。」
そう心の中で思う。
「あなたは覚えていませんか?」
「はい。」
「記憶にございません。」
「都合が悪くなったら、黙秘権ですか。」
「許せない!ハル。許せない!」
「お前は、臣民の忠誠心を踏みにじった!」
そんな声が、会場中から響き、オレに突き刺さる。
シャンディをはじめとする教官たち、そして一緒に学んだ同期の十代たちは口々に証言した。
ハルという男がどれだけ愛がなく、人に迷惑をかけ、暴力的で、だらしがなく、役立たずで、救いようのない人間なのかということを、穴と言う穴をすべてほじくり返すように抉り出してくる。
容赦のかけらもなく、次から次へと責め立てられるものだから、
心臓は激しくうちつけ、呼吸が出来なくなる。
聞いているうちに、耐え切れなくなり、吐き、倒れると、
「きたねえな。悪いことをしたんだから、それ相応の苦しみをうけないと。」
と水を浴びせられ、鞭うたれ、起き上がらせられる。
罵声はさらにひどくなった。
「みんな、みんな死んでしまえ。」
そう思う。
裁判官が耳元でつぶやく。
「素直に自分の罪を認めなさい。
人を恨む気持ちや憎しみは捨てなさい。
全ては自分のせいなのだから。
反省して心を入れ替えれば、慈悲深いトルテ王様は何度でも許してくださる。」
「それが、正しいことなのか?
・・・そうしたらラクになれるのか?
・・・だけど・・・。」
その言葉に屈しようとする自分がいた。