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孤独

「ハル君・・・ちょっと来て。」


シャンディは、小さな部屋に俺を連れてきた。


「そこにお座り。」

手をぐっと握り、オレは、目を合わせないように下を見る。


「こっちの目を見て話して。

目を見ることが出来ないのは、何かやましいことでもあるからでしょう。」


そういって、シャンディはこちらを下からのぞき込む。


「いつも、あなたは人と目を合わせず、びくびくしている・・・。

前の人生のカルマかしらね・・・。

まあ、いいわ。

真実はいずれ明らかになる。

天地神明、宇宙皇帝陛下ザッハ・トルテ様の前に誓って、正直に話してほしいの。


あんた・・・最近、毎日、大切な大切な、トルテ様から支給されている食料だとか生活用品だとかを抱えて、どこかにコソコソと抜け出しては遅くに帰ってくるわね。」


オレは、「はい」とも言えず、ただ頷くばかりだった。


「どこで、何をしているかは、ちゃんとわかってる。」


まるで、心臓に矢が刺さったようにドキリとした。

まるで、自分が、殺虫瓶の中の虫になったような気がした。


「『どうしてそんなことがわかる?』

とか思ってるんじゃない?」


図星だった。


「お前の考えそうなことくらいすぐにわかる。

いい?

私は、〈認識〉を持つ能力者。

だてにゴールドのリングは持っちゃあいないの。」


凍り付くような声でシャンディは続ける。


「あんた、国境まで出かけて行って、何をしているの?


ドロボウネコみたいなマネしやがって!

それがお前の本性なんだよ!」


「・・・ち、違います!

人を、そう、人を助けていたんです!

そして、尊いトルテ法を教えてあげていたんです。」


笑顔をつくる。

そして胸を張る。


「えと、そう。

トルテ法典にもあるでしょう。

第87巻1025章には、

『国の中で困っている人やけがをしている人がいたら助けるべし』

それに、18巻127章には、

『トルテ法を知らない人に延べ伝えることは義務でもある』

とありますし・・・。」


さあ、どうだ。

これは立派なことだ。

これなら、シャンディも納得して褒めてくれるだろう。


「・・・信じたくなかった。」


シャンディはため息をつき、肩を降ろす。

「え?」


「・・・信じたくなかった。

まさか、シルバーにもなったあなたが、まさか、そんなことはしないって、信じてたのに・・・。」


「だって、ほら、トルテ法にもちゃんと・・・」


「問題は・・・」

彼女は、手元にあったランプを手に取り、

「そういう事じゃないっ!」

と、投げつけた。


「言い訳をするな!


トルテ法を自分の都合よく解釈することは、単に間違ったことをするよりも罪が重いのよ!?

法の根源は、それを説かれたトルテ様と、それを支える神聖トルテ帝国にあることくらい初歩の初歩よ?

それを犯すことは、あたかも自分が宇宙を生み出した存在であるかのように振る舞う傲慢なことで暗黒に通じる一番危険なことだとなんで気が付かないの?

そんな一番大切なこと、シルバーなのに知らないなんて狂気の沙汰だわ。」


「す・・・すみません!」


「すーみーまーせーんじゃ・・・」

彼女が手を上げる。

「ない!」


目をつぶり、手を上げる。

「貴様!よけるな!」



「あんたねえ、いつまでたってもそんなことじゃやっていけないわよ。


どこに行っても、あんたは使えない人間。クズ。

今までの人生ずっとそうだったでしょ。


ねえ?

人が真面目に話をしてるんだ。

聞いてるの?


あのねえ、あなたのためを思って言ってあげてるの。」


聞きたくない。

聞きたくない。

終われ。

早く。

早く終われ。


耳が聞こえなくなってしまえばいい。

心が何も感じなくなってしまえばいい。


そうしたら、どんなに穏やかな心でいられるか・・・。


消えろ。

何もかも消えてしまえ。



「とにかく、何であなたのしたことがいけなかったのか。

理由は説明しない。

胸に手を当てて、あなたの本当の心、良心に照らし合わせて深く考えてみて。

きっとわかるはずだから。」


彼女の穏やかな口調。

目はまるでガラス玉のようだ。

彼女は去って行った。







「そうか・・・つらかったね。」

そう、「青年ザッハ・トルテ愛好会」の同じ世代の十代の仲間たちは目に涙をためて聞いてくれた。


「つらかったね・・・」

そう言って、慰めて、寄り添ってくれる仲間が、いることにありがたみを覚えた。

救われたような気がした。


この仲間たちには、何でも話せる・・・。


「でもね・・・」


・・・この「でもね」のあとだ。


「でもね、それはみんなあなたの心が望んで、引き寄せたことだからね?


お母さんも、もっとつらいんだと思う。

相手の気持ちも考えてみて?

その大変さが分かったら、大人になれるってことだよ。


あとで、感謝できる日がきっとくるよ。」


「うんうん。」

周りの人たちは、微笑みながら、深く頷いて聞いていた。


「みんな、ハルのためを思って言ってくれてる。」



「もっと、素直になればいいじゃん?

あなたのもっと直さなきゃいけないところは、素直さ、かな?


とにかく、あなたが不幸なのは、環境や

あなたが、素直になれないから。

人を恨み続けているからだよ?


自分の過ちや罪を謝ろう。

一度謝れば済むことだよね?


素直な心で、ザッハ・トルテ法典を読んで、そして、トルテ王様にひたすら祈ろう。

そして、赦しの秘法を受けて、」


「そうそう。

ザッハ・トルテ関連の以外のくだらないことにお金を使っている暇があったら、

すべて王様のために使おうよ!」


「めっちゃいいこと言う~!」


もう、誰もオレに一言も話させようとはしなかった。

そして、自分の言いたいことばかりを口々に言い立てた。

彼らはみんな、自分の話しに酔っていく。


「・・・あとさ、ハル。

相談してくるのはいいんだけど・・・。」

ケンが、肩に手を置く。

「そういう暗い話やめない?」


ケンは、笑いながら話した。


「誰も、そんな話聞きたくないから。

・・・ほら、みんなが嫌な気分になるでしょ?

そういう話はさ・・・ほら、闇とか暗黒を呼び寄せちゃうからさ。

そもそも何で、自分で何とかしようとしないの?」

「そうそう。」


「それはそうとさー・・・この前の・・・」


オレは、その場で取り残されて、誰の輪にも入れないまま、一人でずっとその場にたたずんでいた。


夜のとばりの中に煌々と明かりが灯っている。

その下で、トルテ国の十代の男女たちが、グループをつくり、楽しそうに語り、踊っている。


その明かりの下で、オレだけがあたかも存在しないかのように、ひとりただ、突っ立っているだけ。


誰も、気がついて話しかけてくる人はいなかった。


「自分から、自分からコミュニケーションとって行かなきゃ。

突っ立っているだけじゃ、ダメだ。」

そう思う。

でも。

でも・・・。


こんな群れの中にオレは果たしていることができるのだろうか。



そのうち、空の黒から、ぽつりぽつりと水滴が垂れてきたかと思うと、しばらくするとしとしとと降りだしてきた。


机は撤収され、若者たちは、ワイワイと、それぞれ帰途につく。


灯りのなかで、雨に打たれながら、オレは一人佇み続け、その様子を見ていた。


誰も気に留める様子などない。


「ホラ!そんなところぼけっと突っ立ってないで!邪魔だから!

早く帰りな!お母さんが心配してるよ!」


そうせかされて、たったひとりで帰途につく。


分かった気がする。


孤独とは、自分一人しかいないことではない。

きっと、みんながいるから、人は一人なんだ。

誰かとつながっているようでいて、本当は、誰ともつながることなんてできやしない。


誰かが、わかってくれることなんて・・・ない。


本当は、あそこにいた誰もが一人なんじゃないか?

それをごまかすために、誰しもが、それを感じないふりをして仮面を作っているだけなんじゃないか?


たった一人の帰り道を灯してくれたのは、胸から出てきたダイモンのリュウであった。


「皮肉なものだね。

雨の暗闇のなかで、たった一人きりのときに、お前だけに出会えるなんて。」











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