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メイ

「しばらくは、この小屋で暮らしなよ。」

オレは、その小屋を隅から隅まで整え、ほこりやよごれを取り除いた。


聞こうかどうか迷ったが、聞くことにした。

「君はどこから来たの?」


少女は、少しとまどっていた。

「あ、無理して答えなくてもいいよ。」


少女は壁のあった方を指して言った。

「あの壁の向こう。」



オレは一瞬戸惑った。

(・・・化外の地か。

そこに閉じ込められ、封印された人々は野蛮で滅びが定められた人々だと聞いたけれども、こうして見て見ると、われわれトルテ国の民と何ら変わることがないじゃないか。

わざわざ命の危険を冒してまで、この国の住人になりたかったのかな。)


しかし、「そうなんだね」と言ったきり、互いに沈黙して、それ以上は何も聞かず、ただ一緒にそこにいることにした。



それから数週間の間、オレは人目を忍んで、その国境付近の小屋に毎日訪れ、食料や衣類、また本(とはいってもトルテ法典しかなかったが)などを差し入れ続けた。


銀色のリングを与えられたものとして、支給される物資はそこそこ余裕はあった。


彼女は少しづつ笑顔を見せてくれるようになった。


ダイモンのリュウはオレにいろいろな直感を与えてくれた。


清水のある場所を教えてくれたり、安全な道を導いてくれた。


「ところで、君の名前は、まだ何も聞いていなかったね。

聞いてもいいかな。」


「・・・メイ」


彼女はそう答えた。


「メイ。いい名前だね。

君は、外の世界から来たのだから、まだこの国の臣民権も、トルテ法のことも知らないよね。」


メイはキョトンとした顔をしていた。


「そうだ!メイ、君にザッハ・トルテ宇宙皇帝様の時証になった素晴らしい宇宙の真実と法則を伝えてあげよう!」


オレは、小臣民に伝える要領で、メイの前で語り続けた。

目を輝かせて、身振り手振りを交えて。


メイは微笑んではいたが、おそらくわかってはいない様子で顔を曇らせていた。


一通り話し終えると、オレは言った。

「外の世界か・・・オレはずっとそこに住んでいる人たちはかわいそうで、人間以下なのだと教えられてきたけれども、メイを見ていると他人に思えないんだよな。

それにさ、実は、教官先生・・・オレの母もそもそもこの外の世界からやってきたって。」


そのことを聞いた瞬間、メイははっと顔をあげた。


「父のことは・・・どうなのかな。よくわかんないや。

父も外の世界の住人だったそうだけれども、何も聞いたことはないよ。話したがらないね。


・・・そういえば、メイ、やっぱり、君はオレや母にどことなく似ている気がする。

他人同士には思えないよ。


だから、メイ。いつか、君もトルテの臣民になって、素敵な光沢のリングを首に付けられるようになれるといいね!」


オレの襟がはだけて、いつもつけている銀のリングが見えた。

メイの顔色が青ざめる。


「!?

どうしたの?メイ?」


「・・・その首輪をした人たちに、父さんは・・・捕まった。」


自分の心臓が急に叩かれたように響き、何か嫌な針で刺されたような痛みを感じる。

息が苦しくなる。

足場が崩れたような気分だ。


「あ・・・えっと、それは・・・まあ、関係のない人だよ。

それに、〈首輪〉って何?

これは、首輪ではなくて、ブレスレット!首に付ける。」


「父さんは、言っていた。

〈首輪の人たち〉に、母さんは息子を連れてついていったんだと。」


「ふうん。

ひどいやつらだね。

だけど、この国は〈自由〉だよ。

そして、この国で大切なことは愛だ。

ザッハ・トルテの法を学んでいる人たちがそんなことをするなんてことはない。

ありえない。大丈夫だよ!


そうだ。

また、オレはこの日に来よう。約束だ。」

そうやって、小指を絡み合わせて誓った。



オレがその日、家に帰ると、扉の前でシャンディ・ガフ教官が立って待っていた。

その顔は不気味なほどにニコニコしていた。






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