ハルの死
「なぜ、なぜ、このオレがそのような運命を担わなければならなかったのか。」
ハルは、一人自分だけが切り離され、見捨てられ、忘れ去られたように感じた。
世界からも、仲間からも、そして〈永遠の君〉からも。
いや、たとえ、彼らがいかに自分を〈たいせつ〉にしてくれようとも、
自分の中にある〈トゲ〉がそれを拒絶し、傷つけて、踏みつけてしまわざるを得ないのだ。
自分の〈トゲ〉は自分を抱きしめようとするものを傷つける。
それは、別に今初めて感じたものではなかった。
物心ついた時からずっとずっと感じ当たり前になっていたこと。
あれは夢だった。幻だったのだ。
幸せな幻想だった。
マスターや仲間たちと出会い、笑愛、向かい入れられ、心が少しばかり通じたような気がしたあの日々は。
こんなことになるくらいだったら、出会っていなければ。
あのままトルテ国に洗脳されたまま一生を終えていれば、幾分かはマシだったかもしれなかった。
ソラは逃げた。
レイも逃げた。
ウミも泣くだけで何もできない。
そしてオレ自身も。
「ゾーラ、お前の勝ちだ。
ともしびは消え去ったよ。
そして、オレたちが歩むべき道も、法も、正義も、完全に敗北した。
無力だった。
完全に無力だったよ、〈永遠の君〉は。
俺の人生は、ただ、不幸のうちに生まれ、チラリと希望を見せられたが、裏切られ、裏切り、また絶望に戻るだけだったのだ。
ハルは、もう誰にも届くことのない国に向かって、自分自身を告白し、そして何の応答もないことを確かめた。
そしてある覚悟を決めた。
その覚悟を決めた時、ハルははっきりと悟った。
空はどこまでもクリアーで、世界という世界がボロボロと剥がれ落ちていった。
「生きる価値は、ない。
そう。
幸せや喜びや意味を求めようとするから、人はますます苦しみにはまっていくのだ。
人生とは、何の意味もない苦しみだけなのだ。
そしてその全てが消えるだけ。そんなごくごく単純なことなのだ。
オレたちはみんな塵から出て塵に帰るだけ。
さぁ、オレも帰ろう。塵に。」
ハルは、手元にある槍を見た。
マスターの血がまだ赤黒くこびりついている。
「ごめん。
ごめん。
マスター。
ごめんなさい。ごめんなさい。
オレはもうこれ以上生きて行けそうにないです。
ありとあらゆることをやろうとしたのですが、運命がそれを許してくれないようです。
あなたのところに、なんか行けはしない、ですよね。
でも、もうダメなんです。
オレは生まれてくるべきではなかったんです。」
ハルは力を込めて槍を握り、目を見開いて、自分に突き刺した。
血が噴き出し、ハルはその場に倒れ込み息絶えた。