処刑
マスターの隣には、ザッハ・トルテ王がいた。
首輪も身分も与えてくれないと分かった王にもはや従う道理はない。
トルテ王をあがめていた元臣民たちは、同じ口で自分たちをだまし、あらゆることを奪い取った指導者を口々に罵った。
巨大な広場に山ほど集まって賛美したよりも、さらに大きな人びとがその様子を見にやってきた。
世界には恨みと憎しみが集まり、その囚人たちに向けられた。
あの腹心ペペロン・チーノは大衆やバコアの味方を装い、新たな王を探し国をつくろうと画策していた。
ケンは、その純情一途な性格を貫き、一緒に捕らえられた。
ボンゴレビ・アンコはあっさりと身をひるがえし、王もケンという恋人も見捨てて、いかに自分が被害者であったかを周りに吹聴して同情を誘った。
ハルの教官であったシャンディ・ガフは気を失っていたところを捕らえられた。
処刑されるものとそうでない者の区別などあいまいであった。
単なるその場の感情ですべてが決定された。
それほどまでに状況は混乱していたのである。
ソラもレイも自分の身を守るためにその場におらず、部屋の中に閉じこもっていた。
ウミだけが、顔を隠してマスターたちのいる処刑場の近くまで寄っていった。
刑場ではひとりひとりが武器を持たされ、囚人たちの身体に一撃を加えるように仕向けられる。
人間とは時に不思議で恐ろしい生き物だ。
自分がわずかにされても全力で身をよじって避けようとする痛みであっても、
自分が痛まないということなら、その残酷な痛みを「自分とは全く異質な種類の人間」と思えば嬉々としてできるものなのだ。
もしそこに、上から、横から、抑えつける原理がなければ。
むしろ、そのことが賞賛されればされるほど。
そして、彼らが苦しみ痛むのを知れば知るほど、暴力を振るう人間は快感に思うものだ。
おそらく、その快楽は、どんなゲームよりも面白く、気持ちの良いものなのだ。
「何でもやっていい」となると、今までおさえていた抑圧の刷毛口はみなこの極悪人のリンチに向かう。
いやらしかった。
囚人たちがどうしたら苦しみ抜いて死ぬかを考えて、精一杯武器をぶつける人々の顔・顔・顔。
それらは囚人よりも醜く、いやらしい。
しかし、みんな揃ってそのような顔をしていれば、蚊一匹殺すほどの罪悪感すらも抱かない。
ウミは気を失わないように、震えながら、マスターの苦しみを一緒に担おうとした。
そうせずにはいられなかったのだ。
マスターのまなざしはウミに語り掛ける。
「ウミ・・・私のために苦しまなくてもいいよ。」
「でも・・・でも・・・マスター。」
マスターとトルテ、ケン、シャンディら王国の幹部たちは人々によって次々と殴打され、刺されを繰り返された。
その人々の中には、見慣れた顔があった。
「・・・ハル!」
ウミは思わず叫びそうになった。
「・・・なんで・・・なんで・・・?ハル!?」