傷
「たしかに、一切は目に見えないほどの小さな粒の運動でしかなく、本当はすべては〈ない〉のかもしれない。
起こっていることは単なる現象で・・・何の意味もないのかもしれない。
だけど、今、感じている痛みや哀しみや・・・・言葉にならない苦しみは現実そのものだ。」
レイは何をどう理解すべきか分からなかった。
ソラは思った。
「なぜだ・・・なぜ、〈永遠の君〉はマスターを助けてはくれないのだ。
すべての源であるのならば・・・
願えば何でも可能にしてくれるんじゃないのか?
なんで、〈たいせつ〉のうちにつくられたこの世界にこんなわけのわからない仕打ちが起こるのか?
マスター、あなたが教えたことは何?
結局のところ敗北に終わる希望なのですか?
すべては無力でしかなかったという証明ですか・・・?」
「やだ・・・やだ。
なんでこんなことが起こるの?
・・・でも、大丈夫・・・大丈夫だよね。
いつも、マスターは言ってくれた。
大丈夫って。何度でも。
だから、マスターが殺されるなんてことはあり得ない、あり得ない。あり得ない・・・。
信じたい・・・。
信じさせて。
〈たいせつ〉こそ最後には勝つのだと。」
ウミはそう祈った。
マスターはボロボロになりながら、処刑台へと赴いた。
「わたしの命と引き換えでいい・・・。
助けて欲しい・・・。
あのわたしの〈たいせつ〉な〈ともだち〉のすべてを・・・。
未来永劫、この〈たいせつ〉がすべての人を救うこととなるように・・・。」
マスターは苦しみの中でそう祈り呻きながら、眼だけは輝きを失わず足を引きずっていった。
「わたしのこの肉体の生命は死なんとしている。
また、この大地も人間も太陽も星々も宇宙も、いつの日か寿命を迎え、壊滅するやろう。
それだけやない。
さらに高い次元の〈こころ〉の世界でさえも、そのイメージを失い、虚空に帰する時が来るやろう。」
「こいつは何を呻いているんだ。」
兵士たちはそう言いながらマスターをあざけった。
「しかし、たとえ虚空に投げ出されても、
大丈夫だ。
安心するがいい。
〈たいせつ〉はあなたを包み込み、
この〈たいせつ〉があなたを生きる現実ならば・・・
この〈たいせつ〉はあなたを掴んではるかなる自由へと翔ってゆく。
〈たいせつ〉はすべての宇宙、万物の根源であり、すべてを支えとる。
この〈たいせつ〉には「なぜ」がない。
〈たいせつ〉に理由などない。
あなたが、ただ、あなたであるから・・・。
わたしの身体はこの大地に朽ち果てるやろう。
しかし、わたしの〈こころ〉はこの地に飢えられ、何千倍、何万倍・・・いや、全宇宙を覆うほどに成長してゆくやろう。」
マスターの身体は痛み、血だらけになり、呼吸をすることもままならなかった。
マスターの顔も目も澄み切っていた。
ついに、マスターは両手足と胴体とを壁に鎖でつながれ吊るされることとなった。
隣で同じように吊るされていた者がいた。