逮捕
縄や剣を持った兵士たちが、ソラたちの眠っている家に押しかけて来た。
ソラたちはびっくりして飛び起きた。
「お前たちは口裏を合わせてマスターをかくまっているだろう。
マスターが見つかり次第、お前たちもしょっ引くことにした。」
ソラはとっさに叫んだ。
「違う!
マスターなんか知らない!」
別の兵士が言った。
「うーむ。
バル・バコアの国で、マスターと一緒にいた少年少女たちがいたような気がするのだが、どうも似ているような気もする。」
「違う!違うわ!」
叫んだのはレイだった。
「おや・・・お嬢ちゃん・・・どこかで見たことがあると思ったら・・・
ティラミス国の王女様じゃないか。
だったら、マスターと一緒に旅に出ているはずだよねえ。」
「違います!
人違いです!
わたしがウミ王女なわけありません。
それに、マスターなんて知るわけがないです!」
その時、声がした。
「探しているのは私のことか?」
マスターは扉の少し遠くに立っていた。
マスターはそのまま首に縄をかけられ引っ張られていった。
マスターとソラ、レイ、ウミの目が合った。
その時、三人はいたたまれなくなって、その場を駆け出した。
駆け出して、突っ伏して激しく泣いた。
「うわあああああああああああああ!
うわあああああああああ!
うわあああああああああん!
マスターは・・・ぼくたちを全員かばうために・・・。
いや、ぼくは・・・とらえられて悪者にされるのが怖くて、とっさに嘘をついて逃げようとしてしまったんだ。
・・・ほっとしていたぼくがいたんだ!
自分じゃなくて良かったって・・・。
あれだけマスターのことを、〈たいせつ〉にしていたつもりだったのに・・・。
ぼくは・・・裏切った。
裏切ってしまったんだ!マスターを。
取り返しのつかないことをしてしまったんだ!
ああ、今、僕たちとマスター・・・そして〈永遠の君〉のあいだには、決して超えることのできない海のような深淵があって分断されている。
もう・・・ダメだよね。
マスターはきっと幻滅して、僕たちを見捨てるよね。
もう・・・死んだ方がマシだ。
うわああああああ!」
レイもウミもそれぞれ別のところでワンワン泣いた。
「・・・ところで・・・ハル・・・ハルはどこに行ったの?」
メイもどこにいるか分からない。
マスターは村のはるか遠くまで、引っ張られていった。
多くの野次馬見物人たちがその様子を少し離れたところからニヤニヤしながら見ている。
ザッハ・トルテの首輪のあとのついた人びともいた。
バル・バコアの人々もいた。
「悪の親玉が逮捕されたってよ。」
「かわいそうだよな。あんな詐欺師のような人間の弟子になったやつは。」
「わたしたちが騙されてきたザッハ・トルテ王みたいなやつがいたってことね。」
群衆たちは、誰から刷り込まれたか分からない出鱈目に編集された情報を疑うことなく信用しきってしまっている。
そして、自分の身の安全と保身だけしか考えず、みんなが言うことにはただ賛同しているだけ。
マスターは家畜のように追い立てられ、引っ張られていった。
なんどもなんども、釘のついた棒で殴られて血だらけになった。
石を投げられ続けた。
みんなみんなそれを見て笑っていた。
家畜のように引っ張られていくマスターを見ている群衆たちの方がよっぽど家畜のように見えた。
しかし、マスターはそんな彼らを優しい目で見つめていた。
何一つ抵抗することなく。
三人は、やはり自分も捕まるのが怖くて、群衆に紛れてボロボロになっていくマスターの様子を見ていた。
マスターは、血だらけになりながらも、兵士たちに冗談を言ったり、ユーモアを忘れることはなかった。
そして、微笑みを忘れることはなかった。