背負う
マスターは言った。
「私も、ピイちゃんのように自分のいのちを差し出さなくてはならない。」
ソラはマスターの服の裾を掴んで、脇に連れて言った。
「やめてください。マスター。
そんなことがあってはいけないです!
マスターそんな暗いこと言わないでください。」
しかし、マスターは返した。
「ソラ・・・私を躓かせんな。
このことは、人間が決めることやない。
〈永遠の君〉の〈たいせつ〉の意志なんや。」
「・・・そ・・・そんな・・・。
僕はマスターのことを心配して・・・。
マスターには、いつまでも健康でいて欲しい・・。
自分をたいせつにしてほしいんです!
なんで・・・なんでそんなんことを言うのですか。」
「・・・ソラ・・・。
たしかに、〈はじめのこころ〉はみんなの幸せを望んどる。
やから、自分だけが犠牲になる、不幸になるなんて言うことは望んどらんねん。
やけど、
〈たいせつ〉にするということはな・・・
ほんとうのしあわせは・・・
降ってゆくことなんや・・・。
自分を捨てることなんや。
たいせつなわが子が死のうとしている時・・・
孤独に苦しんでいる時・・・
親は、自分のいのちがどうなってもいい・・・自分が死んでもいいから、子を助けたいと思うものや。
〈永遠の君〉の〈たいせつ〉もそうや。
そこまでして・・・そこまでして・・・私は、あなたたちを・・・みんなを助けたいんや!
・・・ええか。
みんな。
みんなもそれぞれ、辛いことやしんどいこと、どうにもならんことがあると思う。
自分が自分であることの苦しみ。
やけど、自分へのこだわりをを捨て、自分の運命を引き受けて、私のあとについてきてほしいんや。
自分のことばっかり考えて、それを保とうとするやつは、それをおじゃんにしてまう。
やけど、〈たいせつ〉のために自分のいのちを捨てる奴は、それを得るんや。
もし世界のすべてを手に入れたとしても、自分のいのちを失ったら一体何になるんや?
ええか。
そこに本当の幸せがある。
苦しみと思っとることは、もし〈たいせつ〉のこころで苦しむ人々と一緒に背負うんやったら・・・それは喜びになるんや。
しあわせになるんや。
苦しみが去るに越したことはないで。
やけど・・・悪や苦しみがある意味は・・・
もっともっと大きな大きな〈たいせつ〉のためにあるんや。
このことがあったからこそ、〈たいせつ〉ということに出逢えるんや。
それは、〈幸せ〉をこえた〈しあわせ〉や。」
ソラもウミもレイもハルも胸から哀しさがあふれて仕方なかった。
兵士たちはピイちゃんを食いつくした後、あることに気が付いたようだった。
「おい・・・あの男・・・
ひょっとしたらマスターじゃないか。」