罪
「バル・バコアの兵士だ。
お尋ねものをさがしているのだが・・・。
マスターという者・・・マスター・エッグタルトはいるか?」
兵士たちは、マスターを捜索していた。
彼らはマスターの顔を知らなかった。
「マスターが一体何をしたの?」
ウミが訊いた。
「ああ。
どこからともなく出没して、世界の秩序を乱して回る犯罪者だ。」
「犯罪者・・・!?
まさか・・・マスターが。」
「ああ・・・。
それこそ無数の罪があるよ。
法律で禁止されていることを平気でやりよる。
まず、服装が勝手すぎる。
医者でもないのに、病気を治したり、
奴隷に自由に生きるように誘惑をかけたり、
日陰者たちを結託させて結社をつくったり、
許可もとらず勝手に誰彼ともなく自分のものを贈与したり。
話している内容も実に危険だ。」
「・・・それのどこがいけないんですか?」
「どこがいけないって・・・
駄目なものは駄目だ。
だてに決まりがあるわけじゃない。」
「だから・・・何がいけないんですか?」
「いけないものはいけないんだ。
みんなそれを護ってるんだから。」
「マスターは、人間を本当に大切にしているんです。
どんな儀式やどんな決まりよりも人間が一番大切なんです。
人が決まりのためにあるんじゃないでしょう?
決まりは、人を守るために・・・〈たいせつ〉にするためにあるんでしょう!?」
「たしかに・・・君の言うことはもっともだが・・・
これは、秩序に関わることだ。
・・・マスターを擁護するということは・・・
お前は、まさか・・・マスターの一味か?
もし彼に与することがあるなら・・・身分も命も奪われるぞ。」
「そ・・・そういうわけじゃ・・・」
ウミの中からはそういうセリフがつい意図せず出てきた。
「お前らもまさかマスターの一味じゃないだろうな。」
一同は凍りついて、何も話せなかった。
どれだけこころが一時的に燃えていたとしても、いざとなると臆病になる。
「マスターがいたら知らせてくれ。
もし情報をくれて捉えることができたなら報酬として、金貨を三枚やろう。
ちなみに・・・お前たちは知ってるかどうか知らんが、
この村だけでなく、ザッハ・トルテの国もティラミス国もわがバル・バコアの支配下となった。
ザッハ・トルテ王とその一味は処刑に処される予定だ。
マスター一味とやらもザッハ・トルテ一味と同罪だ。」
「ザッハ・トルテが・・・。」
ハルは何か思うところがあるようだった。
メイは言った。
「もう・・・どうでもいいよ。あんな国。」
「さて・・・食事の時間だ。」
兵士はそう言うと、そとに出ていき、村で飼っている羊を食べたいと言うことを要求した。
「ピイちゃん!」
ソラが大切に育ててきた羊だった。
羊のピイちゃんは怯えていた。
檻が開くも、兵士の目を優しく見つめ、震えながらその先に向かってゆく。
頭に一撃を食らうとその場で倒れこんだ。
そして、気を失っているうちに、一気に首を切られてしまった。
兵士の作業はすべて事務的、機械的だった。
「そうだ・・・羊の血や肉は病気を治したり、健康にいいというからな・・・。
必要な奴に売り飛ばそうか。」
ソラはその場に膝を崩し泣き崩れた。
マスターはその様子をじっと見つめながら、何かを覚悟した様子だった。