秘密の食べ物
食事をしながらマスターは言った。
「あんたらも、お互いに支え合って、奉仕し合うねんで。
私があんたたちにそうしてきたようにな。
そうしたら、幸せになれるから。
約束や。」
「はいっ!」
とみんな元気よく返事をした。
「こうやって、一緒にご飯をたべるってすごく幸せなことだよなあ。」
とソラが言う。
「うん!
みんなで準備して、料理して・・・
おいしそうなにおいにおもわずよだれが出て、ワクワクして・・・
ただ味だけじゃなくて、一緒にご飯を食べれるという時間が楽しみなの。」
とウミ。
「そういえば不思議ね。
食事なんて、ただ栄養を摂取して生き延びるためだけのためなのに・・・。
私たちが人に会ってゆっくり話をしようとするときは、いつも一緒にお茶やご飯に誘う。
その人が、誰と何を食べているかで、生活や考え方も分かってくるような気がするの。
・・・私たちは、こうして一緒にご飯を食べながら旅をして、話をしあうことで、生かされてきたのだと思うの。」
「オレも、あの国にいるときの食事はいつもたった一人で、効率的に栄養の詰め込まれたブロックやらサプリメントでまかなっていたから・・・
こうして、みんなで一緒にメシを食べる経験が凄くよかった。」
「メシかあ・・・
そういえば、レイ、〈秘密の食べ物〉というからには、それは、どんな味がするのか気になるんだよなあ・・・。」
「秘密の・・・食べ物・・・。」
レイが押し黙った。
「あ・・・ごめん・・・いけないこと聞いちゃった?」
「いや、違うんだ・・・。
今、こんな世界の危機の中でしょう。
ずっとずっと封印してきた〈秘密の食べ物〉を・・・
みんな・・・そろそろ、食べなきゃいけないのかなあ・・・なんて。」
レイの声が震えていた。
「・・・いいよ、レイ。
それは、君の一族しか食べちゃいけない秘密のものなんだろう。」
「いいえ。
ずっと一緒に旅をしてきて、本当の家族のようになったあなたたちだからこそ食べて欲しいの。」
「レイ・・・あなた今持っているの?
〈秘密の食べ物〉を。」
「ええ。
これまで、多くの人々が探そうとしてついに見つけることの出来なかった食べ物は私が持っている。
そして、それでも誰にも見つかることはなかった。
プリン島に伝わる神話では、この秘密の食べ物を口にしたために、またこの秘密の食べ物を求めて人は争って、世界は一度滅んだ。
その残骸がプリン島だと伝えられている。
だけど、今、もういちどこの世界を救うために、口にしてほしいの。
他の人間たちには渡さない。」
マスターはそのやりとりにじっと耳を傾けていた。
「レイ・・・その食べ物って・・・。」
レイは上着を脱いで、素肌を見せた。
「〈秘密の食べ物〉とは・・・私のからだ、よ。
私のからだと血、なの。」
一同は言葉を失ってしまった。
「私の一族はずっとずっと数えきれないほどの昔から、〈秘密の食べ物〉となったからだと血を食べてきて、そして、自分自身も〈秘密の食べ物〉となってきたの。」
「・・・そんな。」
ウミは泣きそうになっている。
「別に不思議なことじゃないわ。
赤ん坊が母親から乳を飲む時、
母親は自分の血とからだを削ってそれを乳に変えて、赤ん坊に与えるでしょう。
〈秘密の食べ物〉も同じこと。
宇宙に隠された叡智の入った生命が、私という血とからだになっただけ。
また、人が怪我をして大量に血を失ったとき、
他の人が自分の血を分け与えてその人の命が助かるということがあるでしょう。」
ソラとハル、つまり少年たちはそれを聞いて気分が悪くなったが、
ウミとメイはまっすぐに耳を傾けていた。
「それは・・・痛くないの?」
「痛いししんどい。
そして・・・命を落とすことだってある。
私の両親は私に食べられるために命を落としたんだ。
私は親の命と引き換えに、自分のいのちと叡智とを手に入れたんだ。」
「うっ・・・うえええん。
私は、レイがいなくなるのなんてやだ!やだよ!
そんなことまでして世界を救いたくはない。」
「そうだよそうだよ。」
ずっと黙っていたマスターが口を開いた。
「それをする必要はないで。」