呼びかけ
レイが言う。
「はじめ、私たちは〈はじめのこころ〉「というもの」を探し求めていた。」
ソラが続ける。
「僕はこう思っていた。
〈はじめのこころ〉は、僕たちが本当に願えばその夢の実現に向けてそのすべてを動かし協力してくれるひとつのパワーなのだ、と。
また、宇宙を貫くひとつの法則をそう呼んでいるのだ、と。
そして、その力を利用して、夢を叶えたり、成功しようとしたりしていた。
飴玉ひとつからでも、願ったらちょうど良いタイミングでそれが手に入った。
この世界でうまくいったり、望みが叶えられたりしたら、僕は感謝をささげた。
いや、まず、叶う前にそれがすでに与えられたと感謝をして、それが本当に現れた。
もしくは、願ったものと違う形であっても、思いもしなかった形で叶えられていたこともあって驚いたこともあったよ。
〈はじめのこころ〉は確かに僕の声に耳を傾けてくださっていたのだ。」
ウミが続ける。
「だけど、もっともっと深くつながっていくうちに・・・この世界でのことだけじゃいけないって気が付くの。」
「ああ。
それだけじゃ、何か物足りなくなってくる。」
「私たちの〈こころ〉がもっと喜びで満たされるように、人を〈たいせつ〉に出来るように・・・
そこに本当の喜びがあることを知るようになったね。」
ハルが続けた。
「だけど・・・誰よりも弱いオレにとって、本当に必要なものは・・・
〈永遠の君〉自身だったんだ。
ああ、
オレは顔と顔を向かい合わせ、〈君〉を呼ぶ。
〈君〉はオレを呼ぶ。
その存在のすべてをもって語りあおう。
ここに、世界の源が生まれてくる!
今、ここに君がいて、オレたちが共にいる。
それで十分だ。
どれだけ、定義をしようと、分析しつくしたところで、〈君〉に出会うことはできない。」
「おお!
〈君〉よ!〈君〉よ!
〈永遠の君〉!」
呻くようにおたけびをあげたのは、マスターであった。
マスターの眼には〈永遠の君〉が完全に映し出されており、
〈永遠の君〉のうちにはマスターが完全に映し出されており、
またその〈たいせつ〉という熱い熱い交わりのなかに、いくつもの宇宙が生まれていった。
そこには、大空があり、〈聖なる地〉があり、星の海があった。
このまなざしと叫びに誰もが呼ばれていた。
誰ともなく、〈永遠の君〉の名をその前で、叫び続けた。
それは、夜の暗闇におびえる赤ん坊のようでもあった。
光が欲しいと泣く赤ん坊のようであった。
泣く以外に言葉のない赤ん坊のようであった。
力のない彼らは、
自分で自分の弱さ、痛み、〈トゲ〉をいかんともしがたいことを自覚していた。
ただ、出来ることはこの〈君〉に対して全存在をかけて呼びかけること以外になかったのだ。
あらゆる駆け引き、恐れ、頭の声は潮のように去っていった。
しかし、それでいて、大きな生命の血潮の内で、爆発する感情のなかで、大いなる知性が彼らを導いていることも理解できた。
こうして呼びかけることも、〈はじめのこころ〉から一方的に与えられた〈こころ〉だった。
ソラは思った。
「ああ、
僕は呼びかけて、答えてもらった・・・
そう思っていた。
だけど、本当は、それだけでなく、僕は呼びかけられている。
僕は、信じるのではなく、向こうから完全に信じられている。
だから、僕は信じざるをえないのだ。」
レイは思った。
「私の生命は、こうして呼びかけること。
また、聴くこと。受け取ること。
不完全だからこそ、こうして縋りつくように呼びかけ頼る以外にない。
よりよく呼びかけ、より良く聴くために、
私は、呼びかけ、そして聴く。
天の高みに挙げられようとも、暗黒の深きに沈もうとも、私は呼びかけ、聴こう。
できることはただそれだけ。」