驚き
ソラは言った。
「同意するよ。
まったくそうだとを信じたい。」
「オレも。」
誰もが、返す返事として、ただ全面的な委ねをする以外になかった。
そのどこまでも静かで、それでいて圧倒的な運命のすべてに、その圧倒的な〈善さ〉に対して、人は何をなしえただろうか。
自分の努力によってトゲを抜くことは、自ら動力のない帆掛け船が意志の動作だけで出航するようなもの、泉が水源より高く登ろうとするようなことだった。
永遠の君とひとつになったマスターはこう語った。
「君たちの〈こころ〉を天の星々につなぐんやで。
君たちは、〈わたし〉から離れて何もできない。」
彼らが大いなる安心を得たこと。
このことは、一つの事実であった。
推理によって獲得したものでもなく、実際に触れたことでたしかに分かったことなのだ。
信じようが信じまいが、薬を飲んで症状が良くなるように、
マスターからあふれ出す生命には、たしかに有無を言わせず、人を癒す力があった。
レイは圧倒されながら語った。
「〈はじめのこころ〉との出会いは、驚きだ・・・。
〈たいせつ〉による驚き。
それは時に、人間は発見したり考え出したりしたいかなる理論や法則をも超えて、
私たちに出会うものなのね・・・。」
「〈たいせつ〉こそ本当に人を自由にする。
〈たいせつ〉は自分に自由を与える。
そしてそのことは大きな喜びや。
自分自身からあふれ出して、その自分自身を完全にさし出すことのできる喜びや。
――それが、〈たいせつ〉の気持ちがあふれているということなんや。
その気持ちは、抽象的な心や思考だけでなく、
胸を痛め、肚の底から湧きあがってくる激しさでもあるんや。」
「ウミはね・・・
この〈たいせつ〉があるとき、胸がいっぱいになる。
そしてその喜びをみんなと分かち合いたくなるの。
そうでしょ?
そうでしょ、マスター。
〈永遠の君〉とは、この〈たいせつ〉のこころそのものなんでしょう?」
マスターと五人を乗せたドラゴンは、〈永遠の君〉のこころの源にまでもぐりこんだ。
そこには、この宇宙のひみつが隠されていた。
「せや、ウミ。
完全な〈たいせつ〉である〈はじめのこころ〉は、この〈たいせつ〉を分かち合いたかった。」
〈永遠の君〉からは、〈たいせつ〉のこころがあふれあふれあふれだしていた。
そして、このあふれ出した〈たいせつのこころ〉によってこの世界が存在するようになっていた。」
彼らは〈永遠の君〉と言葉をこえた言葉で交わった。
それは、〈たいせつ〉という言葉であり、
〈こころ〉の奥底にまで響き渡る〈たった一つのことば〉であった。
〈永遠の君〉は、一人一人の人生のすべてに「それでいいんだよ。」と大いに肯定の宣言をした。
〈永遠の君〉はすべてを肯定していた。
そう、すべてを。
絶対的に。永遠に。
「ああ、僕たちは・・・こころを開かれた。」
ハルがこのこころに対して告白する。
「・・・オレは・・・死にたかった。消えたかった。
そんな声が四六時中オレを狂わせるんだ。
すべてを否定し、
すべては否定され、否定され、否定されつくしていた。
ザッハ・トルテの人々には、叩かれ、言葉で傷つけられ、すべては自分のせいだとされ・・・
いまでも傷が残っている。
そして、誰も信じられなくなった。
こころの重荷に耐え切れずに、あまりに孤独に、自分を責め、傷つけもしてきた。
ずっとずっとだ。
ああ、オレは本当の自分自身であることを死ぬことよりも恐れていた。
言えば・・・口に出せば、誰も受け止めてはくれないし、助けてもくれない。
それどころか、もっともっと傷つくことは分かっていた。
だから、痛みを押し込めながら、必死で耐えながら、ここまで歩いてきた。
だけど、あなたにならきっとわかってもらえる。
そして、あなたの中で、オレは・・・すべての苦しみが幸いに変わるのを見る
・・・そう確信しているのだ。
どこにも、自分自身はいない・・・いなかった。
誰もいないところで、自分の知らない自分が独り歩きをしはじめているんだ。
毎晩毎晩、闇に押しつぶされて、目が覚め、
そこには虚しさしかなく、自分のしていることは何だろう、
人の人生とは何とちっぽけなものなのだろうかと思うとどうしようもなくなっていった。
だけど、〈永遠の君〉よ・・・そして、あなたが結んでくださったみんなに出逢えて、
求めていたものはこれだったんだ、と気が付いたんだ。
〈世界〉はすべて移ろい代わり、忘れ去られて消えてゆく。
だけど、〈たいせつ〉―――〈はじめのこころ〉の〈たいせつ〉だけは英宇円に変わることはない。
この〈たいせつ〉のうちに生きる俺たちは永遠に生きる。」