不信
しかし、ハルは言った。
「オレのように深く〈トゲ〉の刺さった人間が、どうやって無限に〈たいせつ〉にされる資格を得ればいいのですか!?
オレは、まず自分をきれいにしてから、まともになってから、その後に〈永遠の君〉に〈たいせつ〉にされなければいけないと思うんです。」
「ちょい待てーい!
あんたの言うとることはな、
『まずは病気を治してから、病院に行くわ』と言うとるのと変わらへんで!」
四人は大笑いしながら話を聞く。
「まったく!
誰があんたをきれいにできるっつーねん!
あんたは自分で自分をきれいにしたり、しっかりしたりはでけへんよ。
あんたをきれいにできるのは、ただ〈永遠の君〉だけや。
あんたがきれいになるのを待って、〈永遠の君〉のところに来ようとすれば、永遠に待っとっても、ムリや!
母の手から離れて、泥沼の中にはまってしまった子どもが次のように言うか?
『自分自身を洗ってきれいにするまでは私は母のもとに帰るわけにはいかん!』などと。
母はその子に『なんでもっと早く来ないの』と怒って、すぐに新しい服を用意して、何も知らない小さな子を着せ替えるやろうが。
優しいお母さんである〈永遠の君〉もまたそうや!」
しかし、さらにハルは反論していった。
「そうはいいますけれどもね、
オレはこの疑いと裏切りと不信のザッハ・トルテの国に生まれて、自分をまかせるべきだという人なんていなかったんですよ!
もし、たまたまあるかもしれないと信じても、結局は利用されて終わりでしたよ!
オレに足りないもの・・・どうしても持てないのは、人を信用するってこと、そのことですよ!
やっぱり、オレにはまだまだ信じるのが怖いんです!
どうしても足がすくんで信じることができないんです!
みんなとは違うんです。
〈永遠の君〉が無限にオレを〈たいせつ〉にしてくれていることは分かりますけれどもね・・・
その具体的な目に見える証拠はどこにあるんですか?
自然も人もオレを欺く。
〈永遠の君〉だけはオレを欺かないという確かな証拠を示してくださいよ!
ただ、とにかくわからずとも信じて委ねればいいってわけですか?
オレにこの確信が起こらないから、オレはこの不自然な事実に触れることができないでいます。
疑うこと、信じられないこと・・・これは、オレの性質なんです!
もうすっかりそのことが身についてしまったのです。
信じたい・・・本当は信じたいんです。」
「だったら、信じればいいじゃないか。
ウミをごらんよ。」
とソラ。
「信じたい。だけど、自分の中の弱さがそれを許してくれないんだ。
ああ、オレにもっともっと〈永遠の君〉を分かる形で見せてくれよ!
それではじめて満足するよ!」
その叫びは、すべての人にとっても同じ心からの叫びだったに違いない。
「・・・確かに、夜空にあふれんばかりに輝く星々、荒れ野に咲く美しい花を見れば、〈はじめのこころ〉の精妙な力を感じざるを得ないよ。
だけど一方で、なぜ世の中には天災がある?地震や火山の噴火がある?
なぜ、狂暴な生物が存在して危害を加えるんだ?
なぜ、世の中に残酷な出来事があるんだ?
〈永遠の君〉はただそれを指をくわえて見ているだけなのか?
口先だけなのか?
なぜ何もしてくれない?
それとも、「世界の浄化」などといって、必要なことだと賛美するのか?
そもそも、なぜこんな世界を生み出した?
オレは、オレの〈トゲ〉がたしかに克服できる証拠が欲しい。
オレは本当に〈永遠の君〉は全き〈たいせつ〉であるという証拠が欲しい。
それがなければ、信じたくても信じることができないのだ!
それなくしては、妄信以外の何だろう?
もし、〈はじめのこころ〉がはじめて宇宙をつくる時に、もしオレがそこに居て話すことが出来たらこう言うよ。
『おたくは何でもできるんだろう?
だったら、こんな世界を作らないでくれ。
せめてもっとましな世界にできないものか?』
ってね。
たしかに、宇宙はあまりにも精巧で完全だ。
ただし、人間という不完全な一点をのぞいてね。」