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道のともしび ~こころのトゲをいやす十のメロディー~  作者: ユウさん
さいごのレッスン
192/225

不正義

「よく気が付いたなあ。

ハル。

まずは、気が付くだけでいい。それだけで合格や。

闘うことはないよ。


ハル、君のうちに住み着いた法と裁判官たちに正義はあるやろうか?」


「・・・おかしいと思うものもあります。

だけど、ほんとうに正しいと思うことから見て、言い訳のきかず、逃れられないものもあります。


おかしいと思うものも、ただしいと思うものも、混然一体となってオレを裁きます。


オレの中の裁判官たちは、どうにかして・・・寄ってたかってオレを罪に定めようとするんです。

過ちも正しさも裁かれるのです。


そして、いつの間にか、自分を裁き罪に定めることで、安心している自分がいるんです。

そのことで、許されると・・・。」


「では、彼らは、君の一度の過ちに対して何度償いをさせた?」


「・・・分からない。

数えたことはない。

でも、きっと、何千回も、何万回も・・・です。」


「そこや。


この世界で人間だけや。

同じ過ちに対して、何回も何回も繰り返して償いをしようとするのは。

他の動物は、同じ間違いに対して一回しかせえへん。


しかし、人間はそうやない。

人間だけが非常に強い記憶力を持っとる。

間違いを犯すと、自分たちを責め、自分自身を罰するんや。

他の人が言えば、間違いのことを何度も思い出させる。」


「そうです。その通りです。

オレは何度も何度も自分を責め、罰し、有罪を宣告するのです。」


「ハル・・・君だけじゃない・・・。

僕たち、こうみえてみんなそうだよ。」

とソラ。


「これは公平なことやろうか?

何回も何回も、間違いを思い出すたびにこころの中に毒を投げつける。

これが正義やろうか。


ええか・・・。

あんたのなかの裁判官は間違っとる!


それはそもそも、その〈法〉が間違っとるからやねん!


あんたらのこころの中にある〈考え方の型〉のうちのほとんどは嘘以外のないものでもないで!

あんたらが苦しむのはなぜか?

嘘を信じ込んでるからや。


その嘘とは何かというと、恐れや!恐怖や!」


「嘘・・・。

恐れ・・・恐怖・・・。」


「この世界の思い込みでは、人間が苦しむこと、恐れの中で生きることが当然のことのようになっとる。


そして、恐怖が外側の世界の思い込みを支配しとるんや。



人間は苦しんだり恐れたりするために生まれてきたわけやないで!


あんたはどこにだって行けるねん!


やのに、なんでそんなところで留まっとんねん!?


人は自由になれるんやで。

そう!いつでも!


あんたの人生はあんたのものや!

好きに生きたらええねん!」


「マスター・・・!


ザッハ・トルテの喧伝する〈暗黒〉とは・・・まさに、あの国の想いこみそのものじゃないですか?

〈暗黒〉と、現実は全く同じものだと言うことがよくわかりますよ。


〈暗黒〉を〈こころ〉の状態とみなすならば、〈暗黒〉はいたる所にありますよ。


ザッハ・トルテの人々は、自分たちの言うことに従わなければ暗黒に突き落とされるといったが、残念ながら、彼ら自身を含めて、オレたちは暗黒の中にいたというわけだ!」


「誰も、他の人に〈暗黒〉行きを宣言すべきやない。


なぜなら、すでに私たちはそこにおるからや。


私たちに真実がみえへんのは、私たちの目が曇っとるからや。

こころにかかっている偽物のものの見方のため、目が曇っとるんや。


私たちは、自分たちが正義で、他が間違ってるとしたい。


私たちは、自分たちの信じている思い込みが正しいと思ってる。

そしてこの思い込みこそが、しんどさや苦しみをつくりだしとんねんで。


私たちのこころを見えなくさせてる〈トゲ〉がある。


自分と世界について信じているすべてのこと、こころに持っているすべての観念や思考のパターンなんかはすべて〈トゲ〉や。


私たちは、本当は自分が何者なんかと言うことを知ることができへん。

本当は自由なんやと言うことが見えとらんのや。


そして、生きていること自体が恐怖になる。」


「一番の恐怖は死じゃないんですか?」


「死は恐怖の中で最大のものやない。

一番の恐怖は・・・

生きるために危険を冒し、本当の自分を表現することや。


ただの自分、ありのままの自分でいること・・・


それが人間の恐怖の中で一番大きいもんや。」


「ただの自分・・・ありのままの自分でいること・・・。」


「私たちも仮面を被っていたようだわ・・・。」

レイがつぶやく。

「ああ、僕もだよ。」

ソラが続く。


「オレたちは、他の人の要求を満たしたり好かれようとすることで、自分の人生を生きることを学んでしまった・・・。

他の人びとから受け入れられないと言うこと、他の人々の目から見て、十分にいい子でないことを恐れてきた。

だから、自分の人生をついて、他の人からどう見られるかということを基準にいきてきた・・・。」


「では・・・なんで私たちは自分自身を受け入れ、ありのままで生きることが難しいんですか?」

とウミが聞く。


「それはな・・・完璧であろうとするからや。

完全でないとあかんと思いこんどるからや。」

君たちは、完全な自分というイメージを作り上げる。

やけど、そんなイメージを作り上げたところで絶対イメージ通りになるわけないねん!


完全でないから、君たちは自分を否定する。


君たちは、望んだり、こうあるべきやと思ったのになれへんかったことに慣れへんかったことに対して、自分を許せへんのや。」


「自分についての完全なイメージ・・・。」


「君たちは、自分を隠そうとする。

自分でないもののフリをする。


その結果、本当の自分を生きている気がせえへんと思う。

そして、他の人にそのことを気が付かれまいとして、社会的な仮面を被る。

それがばれるのが恐ろしい。


そして、君たちはまた、他の人々をもこの完全であるかどうかというモノサシで判断する。

当然やけど、だれも完璧にはなれへん。


あんたらは、他人を喜ばせようとして生きている。

そしてそれだけの理由で、自分自身をおとしめとるんや。


他の人に受け入れてもらいたいために、分かってほしいというために、自分で自分を傷つけることやってある。」


「うう・・・。」

ハルの胸がズキズキと痛む。


「本当の問題は、自分自身が自分たち自身を受け入れとらんことや。

自分を否定するのは、ふりをしている自分が本当の自分でないからや。


ふりをしている自分と本当の自分が同じであってほしいと思う。

やけど、そうはなれへんから、〈トゲ〉はますます痛む。


人間は、自分たちがこうあるべきやと思い込んでる自分自身であれないことで、ずっとずっと自分のことを責めて苛めるんや。」


「自分を苛めている・・・?」


「そう。

自分を虐待するようになり、他の人々を使って、自分自身を虐待するんや。」


「オレがオレ自身を虐待しているだって?

そんな・・・そんな・・・。

ああ・・・。」


「自分を虐待するほどに、自分を虐待できる奴なんておらへんで。」


「したくてしているわけじゃない・・・!」


「それをさせてるのが、あんたの〈こころ〉の奥底に巣くう、裁判官と犠牲者、そして〈トゲ〉っつう思い込みシステムや。」


「たしかに、オレはザッハ・トルテからひどい目にあってきた。

そのせいだ。」


「しかし、君が自分を傷つけ虐待する程度は、それ以上のものなんやで。

君の中にいる裁判官こそが・・・ザッハ・トルテとその法こそが、およそ最悪の暴君なんや。


他人の前で失敗をすれば、君はそのことを否定し、隠そうとする。

しかし、一人になるとたちまち君の中の暴君裁判官が、叫びだし、何とかして君を有罪に仕立て上げようとする。

生きている価値がない、死んだほうがいいものとしてね。」


「ああ・・・うあああ。

その通りだ。その通りだ。」


「ハル・・・

君の人生の中で、君ほど自分を苛めた人はいないねんで。

君が自分をひどく責めれば、たぶん、あなたを殴ったり、貶めたり、ゴミのように扱う人すら我慢してしまうやろう。」


「・・・オレはこう思ってしまうんだ。

相手にも、いいところはある。

恩義がある。

もしあの人びとがいなければ自分は生きることができなかった、と。


そして、自分が傷つけられるのも当然だ、と。」


「私たちは、他の人に受け入れられ、認められ、〈たいせつ〉にされる必要がある。

しかし、私たちは、自分自身を受け入れ、認め、〈たいせつ〉にすることができへん。」


ウミが聞く。

「じゃあ・・・〈トゲ〉の正体って・・・」


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