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道のともしび ~こころのトゲをいやす十のメロディー~  作者: ユウさん
さいごのレッスン
191/225

法と裁判官

「簡単なようでいて、実はできていないことがある。

それは、自分自身を〈たいせつ〉にするということや。」


「自分自身を〈たいせつ〉にする・・・。」


「そう。

〈永遠の君〉は、あなたを〈たいせつ〉にしている。

だから、あなたがあなた自身を〈たいせつ〉にしてほしいと願っとるんやで。」


みんなは、それまで自分自身を〈たいせつ〉にしていなかった自分に気がついて、涙がこぼれた。


そして、そのことに気がいて自分に「ごめんなさい」を言っただけで、〈たいせつ〉が自分の中に流れ込んでくるのが分かった。


「自分自身を〈たいせつ〉にしたら、

次に、すべての人を自分自身のように〈たいせつ〉にするねんで。


ある人への〈たいせつ〉が、自分への〈たいせつ〉より小さいならば、あなたは自分自身を真に〈たいせつ〉にしはじめてはおらんのやで。」


「・・・すべての人を自分自身のように〈たいせつ〉にする・・・。


自分自身に対する〈たいせつ〉と他人に対する〈たいせつ〉は同じレベルでなければいけないと言うことですか?」


「せや。」


「オレたちを傷つけ危害を加えて貶める奴らでも・・・?

無理だ…無理だ…無理だ・・・!

だとしたらオレはオレを〈たいせつ〉にできない・・・。

どうやったら、どうやったらできる?

不可能だ!そんなことは。」


「ハル・・・。

大丈夫。大丈夫やで。

自分を責める必要はないで。

もし、そうだったとしても・・・いいよ。

そんな君が私には〈たいせつ〉や。


あなたがそんなあなた自身を認め、受け入れ、たいせつにすること。

あなたが他の人を認め、受け入れ、たいせつにすること。

他の人があなたを認め、受け入れ、たいせつにすること。


この三つはすべて同じレベルのことやねん。」


「オレは・・・オレが本当に受け入れ〈たいせつ〉にしなきゃいけないのは自分自身だったのですか?」


「ああ。

まずは、自分を正しく〈たいせつ〉にすることなしには、他人は〈たいせつ〉にでけへんで。」


「・・・じゃあ、なんだ。

ザッハ・トルテ国で、愛だ愛だ、おまえのためだからと言われてされてきたことは何だったんだ!?」


「ハル・・・ハルだけじゃない。

ほかのみんなも、良く聞きなさい。


それは、本当の〈たいせつ〉じゃない。」


「えっ・・・。」


「あれの正体は、恐れ・・・恐れなんや。

自分が認められない、〈たいせつ〉にできないところから来るものやったんや。


恐れを利用して、彼らは君たちを「飼いならして」きた。」


「飼いならして・・・きた?」


罰を受けることの恐れ、報酬をもらえないことへの恐れから、君たちは、他の人を喜ばせるため、他の人にとって〈いい子〉であろうとする。

そして、本当の自分を殺して、窒息させ・・・自分以外のもののふりをする。

親を、教官を、社会を喜ばせようとする。

〈ふり〉をし始めるんや。」


ハルはその言葉を全身からスポンジのように吸い込むと、震えながら目を見開いた。


「本当の自分でないもののふりをするのはなぜ・・・?」

ウミが聞く。


ハルが答えた。

「見捨てられるのが怖かった・・・怖かったんだ・・・。

もうここを出たら生きていけない・・・死ぬしかないと思っていた。


充分にいい子でないと見放されるかもしれない。

見捨てられるかもしれない。

嫌われるかもしれない。


やがてオレたちは、自分でないものになっていった。

オレたちは、教官の信念、国の信念、法の信念のコピーになっていったんだ。」


「なぜ、反抗しない?

自分自身であることを貫こうとしない?」

レイが聞いた。


「反抗はしたさ。

子どもの頃は誰しもね。

だけど、誰しもがとても弱く小さかった。

しばらくすると、オレたちは恐れるようになった。

何か間違ったことをするたびに罰を受けるのだ。


そうやってオレたちは飼いならされていくたびに、ついに、自分の中に外からの飼いならす人間を必要としなくなったんだ。

もはや、自分たち自身で自分を飼いならすようになってしまったのだ・・・。」


「ハル・・・今でも・・・ずっとお前の中に巣くっとるやろう・・・。

〈トゲ〉が。

そしてその〈トゲ〉に絡みつくやつが。」


ハルはこくんとうなづいた。


「ああ。

ザッハ・トルテの〈法〉。

そして、それをもとにオレを責め立てる裁判官が〈こころ〉に住んでいるのだ。


こいつらは、オレたちのすること、しないこと、考えること、考えないこと、感じること、感じないこと、すべてを裁こうとしているのだ。

すべてを罪に陥れていこうとするのだ。


ああ、たしかに、〈法〉は狂ったものもあるかもしれない。

しかし、正しいもの、いいもの、人が守るべき〈幸せのルール〉までも含まれている。


オレを苦しめるのは、むしろ、狂った法のみならず、ただしき〈幸せのルール〉なのだ。

その前では、言い訳がきかないのだから・・・!


〈法〉に反するような何かをしたり、考えたり思ったりするたび、裁判官たちはオレに有罪を宣告する。


ああ・・・オレは罰せられるべきであり、自分を責めなければならないのだ。


このことは、毎日毎日・・・起きていても休んでいても、四六時中オレを責め立てて、死に追いやろうとするのだ!


〈こころ〉の法廷でいつもオレたちは有罪判決を受け、落胆する以外にないのだ。」


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