呼びかけ
五人は、どこまでもどこまでも逃げ続けて、ソラの故郷のメープル村にたどり着いた。
村は、焼き滅ぼされて廃墟となったあとだった。
「う・・・うわあああああ!」
ソラは駆け出して、自分の住んでいた場所に頭を打ち付けて泣いた。
幸い、森の中までは誰も踏み入れたあとがない。
ソラは、森の道を抜けて、マスターと出逢った大きな木のそばまでやってきた。
ウミ、レイ、ハル、メイの四人も後から続いた。
その木のところだけ、不思議な光が差し込んでいるようだった。
「・・・この木は・・・僕がはじめてマスターと出逢った場所なんだ。」
「へえ~。」
ウミが言う。
「マスター・・・こんな時に、どうしているのだろう。
今だからこそ、一緒にいて欲しい。
話を聞いてほしい。
受け止めて欲しい。
力を貸してほしい。
助けて欲しい。」
「ねえ・・・みんな。
もう最後にできることは・・・」
みんなはこくりとうなづく。
最後にのこされたただ一つのできることはと言えば、祈ることしかなかった。
「誰か・・・どうか、
この祈りが届く方がいたら・・・
助けてください。」
ウミの祈りにみんなが続いた。
次第に、その祈りは懇願の祈りから、確信の祈り、そして感謝の祈りへと変わっていった。
世界のメッセージを聴く祈りから、
自分を完全にあけわたす祈りへ。
そして、最後には、
ただ・・
ただ・・・
ある・・・
そこにいるというだけの、
祈りをこえた祈りだった。
四人はともなく、そこに共に居てくださるあの親しい存在に気が付いた。
マスターだった。
「どうも。」
とだけマスターはあの優しいほほえみでみんなを抱きしめた。
四人はマスターに出会うことができて大いに喜んだ。
メイは目を丸くしてマスターのことを見ている。
「メイ、紹介するよ。
マスター・エッグタルト。
オレたち仲間を結んでくれたのがこの人だ。」
「マスター・・・。」
メイはその人の存在に触れるなり、なぜか分からなくなって泣き出してしまった。
こころの中からあたたかいものがこみあげてきて、まるで噴水のようにあふれ出してくる。
この人は、自分の心の苦しみをすべて知っていて、そしてまたそれを受け止め、解放してくれる人で、
たとえそれがどれほどの闇でも絶望でも、そのことに不可能はないのだと確信したのだ。
「うっ・・・うぐっ・・・うっ・・・うわあああああ・・・うわあああん!」
メイは大声でひとしきり泣いたあと、ただマスターの膝のもとに居るだけで安心しきって眠ってしまった。
「よかった・・・よかったね。メイ。」
マスターは言った。
「大丈夫、大丈夫。
もう安心しなはれ。」
ソラたちの身体にまとわりついていた触手はみなたちどころに切られていた。
マスターはすこし姿をくらました後、まるでロバにでも乗ってくるように、空から光の〈ドラゴン〉に乗って飛んできた。
トゲはたしかに、まだ存在はしていた。
しかし、そのトゲをドラゴンは優しくひょいと掴んで、みんなをその背中に乗せた。
「まさか・・・ドラゴンさん・・・
わたしたちのトゲを利用してまでこんないいことまでしてくださるなんて・・・。」
「乗り心地はどうや?
ちゃんとふかふかのクッションもしいとんねん。」
ドラゴンは一気に大空に駆け上がり、太陽と大地と星々の見渡せる場所にまでやってきた。
みんなのダイモンたちも喜び飛び回っている。