根無し草
「ウミ、あなたは旅を続けなさい。」
「はい!お父様!」
「この旅で、随分しっかりしてきたね。
これからも大変なことはあるだろうが、ウミなら必ず乗り越えていける!
ウミならできるよ!」
ウミは大好きな父王から言われると、本当にそれが出来る自分の姿が想像できてしまうのだった。
一同は、トルテの国までやってきた。
あの長い城壁は崩れ、バル・バコアの兵士たちと、夢から醒めたように途方に暮れているザッハ・トルテの民たちが入り混じっている。
兵士たちは、ハルたちの様子に気が付く様子もない。
気がついても、かまっている暇がないのだ。
「あ・・・」
ハルは崩れ落ちた小屋を見つけた。
「どうしたんだい・・・。」
「この小屋は・・・。
そうだ。ここで、オレはわが妹、メイと出逢ったのだった。
そして、この世界の真実を知ったのだった。
・・・だけど・・・だけど、もうあの子はいない。
オレは償っても償いきれない罪を犯してしまったんだ。」
すると、こんな話が聞こえてきた。
「あの、集会で一番初めに叫んだあの子・・・名前なんていったっけな。
そう、メイだ。
あの子の勇気ある叫びから、この大きな国のすべてがひっくり返ったんだよ!」
「今の話・・・もう一回聞かせてください!」
とにもかくにも、メイが生きていたこと・・・そして、集会で叫び、その叫びが国をひっくり返したことを知った。
「そうなんだ・・・そうだったんだ・・・。」
ハルは涙が止まらず、そのまま座り込んでしまった。
「ハル・・・妹さんを探そうよ!そして会いに行こうよ!」
そうソラは声をかけた。
しかし、
「・・・いや、そのことを知れただけで充分だ。
オレは・・・会わない。
会わない方がいいんだ。」
「なんで・・・。」
「聞かないでくれ。
オレはあの子に負い目がある。
メイはオレを裏切り、オレはメイを殺したんだ。
互いに会わない方が楽だろう。
このことは、互いの胸の中に一生取っておきたいのだ。」
「・・・・分かった。」
あっさりとバル・バコアに寝返ったペペロン・チーノはザッハ・トルテの裏側をすべて暴露し、新聞やなんやらを利用して、その異常な事態を広め始めた。
続いて、無数のザッハ・トルテで虐げられてきた民が、それに乗っかってその実態を話すようになったが、実情はハルが経験してきたようなものと似たり寄ったりだった。
彼らは口に出せなかった長年の恨みつらみを一斉に吐き出し続けた。
そうしないと気が済まなかったのだ。
ハルは思った。
「・・・なんで、あの国にいる時に、彼らと出会って、想いを共有し分かち合うことができなかったのだろう。」と。
「ハル、お前もたくさんネタを持ってるんだから、何か語ればいいじゃないか。」
そうレイに言われたものの、ハルは断った。
「いや・・・いいよ。いいんだ。
この国で受けた苦しみよりも、みんなといた時間の方がずっと濃かったから。
・・・オレは、そろそろオレの人生を生きたい。」
国の中には、根無し草のようになり、いきなり大海に放り出された鉢しか知らない金魚のような人々があふれかえり、不安に身を震わせていた。