説教
「ハル・・・。」
「司令官・・・その少年はまさか・・・。」
「そう。
有名だよな・・・俺たちの国の中では、な。」
「あの、噂の・・・凶悪な恥さらしの落ちこぼれの暗黒堕ちした少年ですよね。」
銀色の首輪をつけた兵士たちが笑いをこらえられなさそうに言う。
「いろいろ覚えてるよ。
子どもの時から一緒にずっと育てられてきたけれど。
お前がどれだけ神聖なルールも守らず、国全体に迷惑をかけ、国にあれこれすべてをしてもらったにもかかわらず、恩を仇で返す人でなしかっていうことをな。
母親であるシャンディ・ガフ教官に、いつも怒られていたよなあ。
忠誠が足りないことが原因でよく熱を出していたよなあ。
そして、虫けらのような存在をかくまった。
大勢の前で、〈許しの秘法〉をして、お前の前の人生がいかに悪と罪にまみれたものだったか衆人にさらしたよな。
後ろの、姫様。
このハルという奴はそんな男ですよ。
ここの王族は、見たところ、そうだな・・・我々の国でブロンズかシルバーの身分を与えてもいいくらいかもれん。
生かしておいて、宇宙最終戦争に勝利した暁には忠誠を誓うならそこそこの待遇を与えてもいいのだが。」
ハルはウミの前でそんなことを語られると気を失いそうになった。
ウミが悲しそうに見つめる。
「そういえば、お前は〈救済〉されたんじゃなかったっけ?
それは残念だ。
まあ、お前は自ら望んで闇に堕ちたんだ。
脱落者。
生きている価値がないということは変わりはないがね。
お前のこころには深い〈トゲ〉がうちこまれているよな。」
「・・・〈トゲ〉を持っているのは、オレだけじゃないさ。
みんな・・・みんな同じだよ。
オレも、お前も。」
「確かにそうだ。
それは認めよう。
人間は誰しも不完全だから過ちはある。
だけど、オレや立派なザッハ・トルテ臣民は違う。
毎日、ザッハ・トルテ理論を読み込み、自分の厳しい努力でそれを克服しようと永遠の修行を続けているのではないか。
それに、本来〈トゲ〉などないのだ。
〈トゲ〉のことを考えるからそれはますます深く突き刺さる。
ザッハ・トルテ理論にはすべての答えがすでに書かれているのになぜ、お前は迷ってそれを実践しようとしない?
すべて、お前自身がつくりだしたものだ。
やたらと、〈トゲ〉のことなど思うからいかんのだ。
そんなことを考えたり口に出してはいけない。
人間は皆ザッハ・トルテの光を与えられた輝く存在で、本来光だけの自由な存在、〈トゲ〉などない存在なのだと思わなければいけない。
まずはそこからスタートだ。
しかし、お前はどうだ?
自分が出来ないのをあれこれとできない理由をつけて言い訳をする。
そして、その腹いせに、ザッハ・トルテのあれやこれやに対して批判や文句を垂れる。
それは筋違い以外の何物でもないのではないか?
前向きにならなきゃいけない。
前向きに。
前向きにザッハ・トルテ様に忠誠を誓うのだ。
その努力をお前はしているのか?」
ケンはまっすぐにハルに指をさす。
「きついことを言って、君の感情を害しているかもしてない。
でも、お前のためを思ってあえてきついことを言うんだ。」
「そうですよそうですよ。
本当の友達だから、あえてそんなことを言うんですよ。
あなたのことがどうでも良ければわざわざ言いませんってば。
幸せ者ですよね。ここまでになっても見捨てないであなたのことを思って厳しいことを言ってくれる友達がいるって。
これこそ本当の友達ですよ。」
とまわりの兵士たちが頷く。
「はあー。ケン司令官、かっこいい~」
という声が漏れる。
「お前が変わらない限り、世界は変わらないよ。
お前は、もう、自分を許せ。
たしかに、ザッハ・トルテの民にも間違ったところはあったかもしれん。
誰しもが未熟なのだ。
しかし、ザッハ・トルテの法には間違いはない。
今までの過ちを素直に認めて、宇宙皇帝様に詫びよう。
そして、すべてを感謝に変えてゆくんだ。
自分だよ。
大切なのはみんな自分だよ。
お前の〈トゲ〉はみんな自分で作ってるんじゃないか?
闇をザッハ・トルテの智恵の力で打ち破ろう。
君は未だに迷妄にとらわれている。
今からでも遅くない。
さあ、真実に目を開こう!
戻ってこい。
あの暖かいザッハ・トルテの国に。」
ケンは生あたたかい目をしてハルに説教を垂れた。