闇の存在
「待って・・・。」
レイが口を開いた。
「あの人たちも・・・〈秘密の食べ物〉を伝承した一族だったはず。
ひょっとしたら・・・彼らの狙いは・・・それかもしれない。
ただ殺しを楽しむためだけに小さな何もない島に来るわけがない。
あの兵士たちの奥には何か・・・操っている誰かがいるはず・・・。」
「レイ、そういえば、君の語った神話のなかに、三つの〈存在〉が語られていなかったか?
ゴルゴン・ゾーラと、ザワーク・ラウトと・・・そして・・・なんだったっけ。」
「ガノフ・・・
ビーフストロ・ガノフ・・・。」
「ビーフストロ・ガノフ?」
「彼らにはそれぞれ役割があるの。
ザワーク・ラウトは、人間の〈こころ〉を目に見えない世界へと開く一方で、多くの〈まやかし〉を使って、迷宮に入り込ませる。
ビーフストロ・ガノフは、人を物質や技術の発展に寄与させる一方で、見える世界だけがすべてだと人の認識を縛り付ける。」
「必ずしも、完全なる悪というわけではないのだね?」
「悪のきっかけをつくるのは・・・彼らに悪を働かせるよう協力するのは、私たち人間の〈こころ〉よ。
私たちの〈こころ〉にゴルゴン・ゾーラが誘惑をかけて、それらの存在を悪に導くように誘導するの。」
「ビーフストロ・ガノフ・・・それが、バル・バコアの国を支配している存在だというのか?」
「知らないわ。
神話。あくまでも神話よ。
でも、大切なことが語られていると思っている。
ただ、〈秘密の食べ物〉が伝わってきたのは事実だから・・・〈秘密の食べ物〉を狙っている可能性は大いにありうるわ。」
「〈秘密の食べ物〉って何だい?」
「・・・それは、文字通り、秘密。」
「少し、食べてみたい気もするが、ダメなのか。」
ハルが口を開いた。
「ザワーク・ラウト・・・。
その名前、ザッハ・トルテにいた時、何度かちらりと耳にしたことがあるんだ。
ただ、決して表舞台に出ることはなかったが。
トルテ王もペペロン・チーノもその名前をたびたび口に出していたな。
もし、そうした存在が本当にいるとするならば・・・。」
ソラは言った。
「・・・僕は・・・
僕は、旅に出る前に、あの村で飲み込まれそうになったことがあるんだ。
ゴルゴン・ゾーラに。
だけど、その時にマスターに助けてもらった。
それからだ。
ぼくがマスターについていって旅に出始めたのは。」
ウミは指をくわえてスヤスヤと眠ったままだ。
「まあいい。
プリン島に寄ってみるわ。
・・・おそらく、彼らの支配されているうちにあるでしょうけれども。」