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「それでも・・・」

ソラが口を開く。


「それでも・・・僕は信じるよ。」


三人が顔を上げた。


「ほら・・・教わったじゃないか。

人のこころの中には無限の力があるって。

その力を信じて使えば、不可能なんてないと。」


「何を信じるというの?」

レイが切り返す。


「何が・・・信じられるというの?」


ソラは怯えながらも「信じる」という言葉を口にした。


「信じる・・・信じるって・・・具体的にどうするの?何ができるの?

こんなたった数人でできることなんてあるの?

世界を流し去ってゆく巨大な力の中で。」


レイはいつになく取り乱していた。


ソラはそれでも、言った。

「信じる。」

と。


「きっと、うまくいく。

どうなるかは分からないけれども。


こころの中に明るいビジョンを描くんだ。

みんなが幸せで平和な世界を・・・。」


「そんなのまやかしじゃないか・・・。」

ハルが口を開いた。


「そんなことでうまくいってたなら・・・こんなことにはならなかったんだ。

そんなまやかしみたいなイメージングは、あのザッハ・トルテの国で死ぬほどやったさ。」


ソラは、何も返さない。

そして、歯を食いしばって、それでも空を見上げて笑顔をつくろうとしている。


「・・・こんな・・・こんなときに、希望以外何が残されているって言うんだ?」


ソラは振り返って駆け出した。


今まで、こころの奥底にしまい込んでいた痛みが蓋を破って出てきそうだった。


「・・・ずっとずっと、僕は明るい考え、前向きな言葉で世界を変えようとしてきた。

そうすればするほど、僕の寂しさや痛みは消え去ると思って。

いつか、真っ白な幸せだけが僕の人生と、その周りの世界を取り囲むことになるだろうって。

そして、完全な自由と富が得られるのだ、と。


・・・ああ、たしかに、僕はある程度の成功を手に入れた。

素敵な仲間も、世界中を旅するという体験も。

自由もできたし、そこそこの富もある。

多くの人が僕を慕ってくれるようになった。


僕の行くところは、ただ勝利、勝利、勝利しかないはずなのだ。


だけど・・・だけど、この寂しさは何だろう。

いつも、僕を責め苛むこの何かは。


・・・気のせい・・・いいや、気のせいだ。

いつでもそんな幻想は消し去ることができる。


そう思いながらも・・・

それは追ってきて、消えることはない。


克服し、見えなくなったと思えば思うほど、

それは、ふとした瞬間僕のこころを捉えて引きずり込むのだ。


いけない。

・・・闇は即切り捨てなければ。


大丈夫・・・大丈夫・・・大丈夫だ。


こうしていれば、

今は何も光が見えなくとも、

ただ、僕一人だけでも、光を意志していれば・・・


きっと・・・きっと、必ずいいことが起こるんだ。


人類の歴史で偉大な事業を成し遂げてきた人々も皆そうだったではないか。


踏ん張れ、ソラ!


よくなる。

かならずよくなる。

きっと良くなる!」


そう言って、ソラは独り涙を拭いて、空に向かって笑顔を作った。



遠い目でソラの背を見ながらハルは言った。


「ソラのことは嫌いじゃない・・・。


好きだし、尊敬もしている。


だけど・・・今は・・・

あんな幸せそうで、前向きで、キラキラした人を見ると吐き気がする。


とてもじゃないけれど、ついていけない。」



レイは深く深呼吸をしていった。

「・・・。

落ち着きましょう。

感情に流された私が言うのもなんだけれども、感情に流されず、今できることを考えるの。

そして、それを淡々とやれば・・・いい。」


レイの目はまるで機械のように感情を持っていなかった。


というよりも、それは必要なことだった。

「秘密の食べ物」を食べた者は、危急存亡のときにこそ冷静沈着に振る舞うべしという教えを守らねばならない。


医師が体の中を切り開くときに、失神も取り乱しもしない訓練を積むように、レイもこの事態において自分の個人的な感情を全くわきに置く作業をしたのだった。


ウミは、ずっと会話に口を挟まないと思ったら、座り込んで指をしゃぶっている。



「・・・まったく。

ソラは楽観的なところに逃げているし、ウミは以前にも増して幼児みたいになってしまうし、ハルは自分の中にこもってばかりで何もしようとしない・・・。

いつもそうだ。」


レイは、何をすべきかを考えた。






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