かつて望みもしなかったこと
四人の中に、ただ言い知れぬあたたかいものだけが残った。
「・・・これが、〈たいせつ〉?」
ハルはマスターから言われたことを思い出していた。
マスターがただ、自分を一方的にどこか遠くの理想郷に連れて行ってくれるわけじゃない・・・。
世界中の様々な街や島をめぐっても、こころの扉はすべて自分の内側にある。
マスターはオレたちのこころをノックし続けていた・・・。
開くには自分から・・・自分の内側からそれを開かなきゃいけない。
もらった〈たいせつ〉を自分のところだけにとどめておいてはいけない。
ハルは顔をあげて、言った。
「・・・すべての人の中に、どんな人間的な親密さでも満たすことのできない孤独な部分がある。
だけど、オレたちは決して一人ではない。
深いところによく目を注ごう。
〈こころ〉の最も深いところで、
〈永遠の君〉はオレたちを待っている。
そして、オレたちががかつて望みもしなかったことが始まるのだ。」
ウミは
「〈こころ〉の沈黙のうちに耳を傾ける時、私たちは気が付く。
〈永遠の君〉は人を辱めるために来られるのでは決してなく、
人を変容させるために、
わたしたちを最も悩ませていることさえも新たに変容させるために来られることに。
わたしたちの知らない〈たいせつ〉が、わたしたちのただなかにいるの。
その〈たいせつ〉はけっして自分を押し付けることなく、あなたの横で静かに共に歩く方。
そして、わたしたちの心の静けさの中にささやくの。
「恐れることはない。
わたしはここにいる。」
と。
信頼のうちに、自分のすべてをその〈たいせつ〉に委ね、
そして迎え入れたい。」
「もしそのことを分かっていても、いなくても・・・
〈はじめのこころ〉とマスターはぼくたちみんなのすぐ近くにとどまっているよ。
自分に気が付かない人の近くにさえもとどまっている・・・。
不思議のうちにそこにいるんだよ。」